A Taste of Music vol.452024 05

Contents

◎Featured Artist & Recommended Albums
Joni Mitchell“Blue”, “The Hissing of Summer Lawns”, “Shadows and Light”, “Turbulent Indigo”, “Both Sides Now”, “Travelogue”, Julian Lage“Speak to Me”, John Surman“Words Unspoken”

◎PB’s Sound Impression
Audio & Visual Professional Shop“SOUND TEC”Listening Room……ESOTERIC K-05XD, ESOTERIC N-05XD, DENON DP-3000NE, Accuphase C-2300, P-4600, C-47AC-6, Sonus faber Olympica Nova III, ACOUSTIC REVIVE Audio Accessories

構成◎山本 昇

Introduction

「余計なものが何もない。音楽そのものを観ていられる」
 
映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』
が公開に

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ⓒ KAB America Inc. / KAB Inc.

 今回は山口県防府市にあるオーディオ・ショップ「SOUND TEC(サウンド・テック)」にやってきました。A Taste of Musicの出張企画としては東京から最も遠い場所からのお届けとなります。お店には、ここステレオの部屋のほかにも本格的なシアター・ルームなどいろんなスペースが用意されていて面白いですね。そのあたりは後ほど、お店の代表である三宅宏明さんとのコーナーでお聞きしたいと思います。まずは、5月に公開される映画についてお話ししましょう。

 去年の3月に亡くなった坂本龍一の映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』は、彼が好んでいたというNHKの509スタジオでのピアノ演奏を収録したコンサート映画です。モノクロの映像は、ピアノを弾く教授の姿を淡々と追うだけで、解説も何もありません。でも、もうそれで十分ですね。その直後に亡くなるのを観る人はみんな知っているから、そういう情感にうったえるも部分あるわけで……。映画の監督は、教授の息子である空音央(そら・ねお)が務めています。映像はとても丁寧な印象を与えますが、シンプルで奇をてらうようなところもありません。音もすごくいいですね。全体的にミニマルなこの感じが僕は好きです。余計なものが何もない。音楽そのものを観ていられる構成はとてもいいと思いました。

 20のセットリストの中では、個人的にはよく聴いていた「20220302 - sarabande」、そして「Tong Poo」が良かったですね。また、「Happy End」「Merry Christmas Mr. Lawrence」「Opus - ending」という最後の3曲の流れも印象的でした。「The Sheltering Sky」や「The Last Emperor」も教授の映画音楽として有名ですが、「戦メリ」のテーマ(「Merry Christmas Mr. Lawrence」)は本当に素晴らしい。僕自身が映画『戦メリ』に濃密に関わったこともあるのかもしれませんが、一つの作品として聴く人の心にうったえるものがたくさん詰まっている。これこそ彼の最高傑作だと今でも思っています。教授の一周忌に公開される『Ryuichi Sakamoto | Opus』は、ファンならみんなが喜んで観られる映画だと思います。

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映画『Ryuichi Sakamoto | Opus
音楽・演奏:坂本龍一
監督:空音央 撮影監督:ビル・キルスタイン 編集:川上拓也 録音・整音:ZAK 製作:空里香、アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ 製作会社:KAB America Inc. / KAB Inc.◎日本/2023年/モノクロ/DCP/103分/Atmos &5.1ch/配給:ビターズ・エンド◎5月10日(金)より全国公開

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PB’s Sound Impression

「レコーディング・スタジオにいるようなサウンド」

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−−ここからは、SOUND TECの三宅宏明さんとのミニ対談をお届けします。お二人とも、よろしくお願いします。

三宅 今日は遠路はるばる山口までお越しいただき、ありがとうございます。

PB ここまで来るからには何かあると思っていましたが、本当に見るべきもの、聴くべきものがたくさんあるオーディオ・ショップで驚きました。

三宅 それは嬉しいお言葉です。当店では、お買い求めやすいものから高級なものまで幅広いラインアップを取りそろえています。マニアの方だけでなく、これからオーディオを初めてみたいという方にも気軽にご来店いただけるよう心掛けています。また、女性のお客様にも興味を持っていただけるような商品もご用意しています。

PB そうした初心者や若い方、あるいは女性の方たちがオーディオの世界に入ってきやすくするためにどんなアプローチをしていますか。

三宅 オーディオの楽しさを広めるために体験の共有、共感を大事にしています。どんなオーディオ製品も、音楽や映像を楽しむためにあるのですから、まずはその方が大好きなコンテンツを体験していただきます。そして、ヒアリングをさせていただきながら、その方の住環境にどう馴染ませていけるかを一緒に楽しみながらご提案させていただいています。

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カジュアルなリビング・シアターを想定したコーナー。家具や照明、インテリアも含めたトータル・デザインを提供している

PB スタッフの方がたくさんいるのは、いろんな人たちのニーズに対応するためですか。

三宅 はい。私がこの店に入った頃はゴリゴリのプロスタッフのみで対応させていただいていました。そこから何かを変えようと、私の妻に手伝ってもらったり、ほかにも女性スタッフを増やしたりしました。年齢構成も、現在は会長を務める70代の父から30代前半まで、どんな世代のお客様にとってもお話ししやすいスタッフが揃っています。

PB 僕が日本に来て、初めてステレオを揃えたときのことを思い出してみると、例えばスピーカーは壁一面にある中からスイッチャーで聴き比べたりしていました。それはけっこう時間のかかるプロセスですよね。

三宅 そうですね。当店もかつてはひな壇にスピーカーをたくさん並べてスイッチャーで切り替えられるようにしていましたが、それよりも、アンプやプレイヤーなどを含めたシステムとして聴いていただくのが理想的だと考えました。そこで、いろいろな部屋を用意して、その空間に合ったシステムをご紹介しています。そのほうが、実際の居住空間でどう聞こえるかということも想像していただきやすいと思うんです。

PB 確かに、そのほうが分かりやすいですね。お客さんの試聴は自分の好きな音楽で行える?

三宅 ぜひお好きな音楽をお持ちいただくようお願いしています。それで聴くのがいちばん分かりやすいですから。最近はデータを持参される方も多いですが、もちろん対応しています。

PB ここにはシアター・ルームもいくつかありますが、特に2階の部屋はまさにミニ・シアターにいるようで素晴らしかったです。視聴したエリック・クラプトンのライヴのBlu-rayなど、まるで自分の目の前で弾いているかのような音でした。

三宅 2階のハイエンド・シアターは私のこだわりをいろいろと反映させていまして、特に定在波という音の跳ね返りによる悪影響を排除するための工夫、反射・吸音のよるルーム・アコースティックもしっかりと行い、コンテンツに没入できることをコンセプトに設計しています。また、部屋のインテリアも、いいデザイナーと組むことができ、ホーム・シアターにありがちな圧迫感のない快適な空間に仕上がったかと思います。

PB 相当なこだわりを感じました。

三宅 音響データのコンピューター解析も使って建築との融合を図り、電源回路も専用にして、スピーカーを設置する場所には共振を抑え、音質を向上させるためのステージを造ったり。ここまで細かくやるのには確かに時間もかなりかかりました。また、いい空間は建築やデザインに携わる外部のパートナーたちとのコラボレーションも欠かせません。みんなで1チームと言いますか、そういった連携もあってこそだと思います。

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SOUND TEC代表の三宅宏明さん

PB そういった総括的なサーヴィスを求める人たちは山口にも多いのでしょうか。

三宅 そうですね。例えばスピーカーも、ただ置いただけでは理想的な音にはなりません。環境に応じてどう追い込んでいくかが重要になりますが、そうしたこともきちんとご説明すれば、皆さん分かってくださいます。「お店で聴いたときは良かったけど、家に入れたら思うように鳴らない」というケースは、機材とそのお部屋のマッチングもありますが、音の反射のコントロールを見直すことも重要です。そのあたりのフォローもしっかりさせていただいています。

PB 三宅さん自身、相当に研究しているんですね。

三宅 はい、勉強させていただいてます。私も好きなので、「何か違うな」と感じればいろいろ試したりしています。

PB 個人的にはどんな音楽がお好きなんですか。

三宅 私は若い頃、東京に住んでいたこと、そして長期にわたって海外を旅したことがあります。各地のフェスやクラブ・イベントといったシーンを体験する中で、そこでかかっていたハウスやテクノ、ヒップホップといったダンス・ミュージックやブラック・ミュージック、ロック、ワールド・ミュージックに感化され、好んでよく聴いていました。その後、地元に帰ってきてハイファイ・オーディオに深く携わるようになり、ジャズやクラシックなど、高音質録音の生演奏への興味が深まってきました。今日もいろいろな音楽を聴かせていただきましたが、生のセッションの素晴らしさ、そのときにしか録れない物語と言いますか、そうしたものに触れながら、好きなジャンルも広がってきました。

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バラカンさんもお気に入りのハイエンドなシアター・ルーム(2階)には“Double bass array”やDSPの活用による定在波の除去など、三宅宏明さんのアイディアもふんだんに盛り込まれている

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PB 取材で使わせてもらったこのメインのリスニング・ルーム(ステレオ)ではアナログからハイレゾまでいろんな音源を聴きましたが、まるでレコーディング・スタジオにいるような感じがする音でした。機材ももちろんいいものですが、部屋そのものの鳴りも工夫しているのでしょうか。

三宅 今日お聴きいただいたシステムは価格帯で言うとミドル・ハイ・クラスのものです。それほど高すぎないものでラインアップしてみました。ルーム・チューニングとしては、低音がこもらないよう壁の隅にベーストラップを設えたり、天井に拡散パネルを貼ったり、様々な対策を施しています。もちろん、電源周りもしっかりした環境に整えています。そのほか、ACOUSTIC REVIVEさんのケーブルをはじめいろんなアイテムがノイズを軽減したり、音楽の躍動感を支えてくれたりしています。

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電源系をサポートするACOUSTIC REVIVEの各種アイテム。電源ボックスRTP-6 absolute、電源タップ用クォーツアンダーボードTB-38Hなど

PB オーディオ・アクセサリーも、“Before and After”で聴き比べると分かりやすいですよね。

三宅 そうなんです。当店でも試聴イベントなど行っていますが、聴き比べではアフターで感動できなければ意味がないと思っています。隠れていたものが出てきたとか、スケールが大きくなったとか。表現の仕方は様々ですが、ACOUSTIC REVIVEさんのアクセサリーも縁の下の力持ちになってくれています。この部屋でも、ケーブル類のほか、ルーム・アコースティックを整える新製品などいろいろ使っていまして、一つひとつ、ない状態とある状態の聴き比べをスタッフ同士で行いながら組み上げています。アクセサリーを導入することで、機材のポテンシャルもしっかり出ますし、ソースに元々入っている情報を、より引き出すことにも寄与していると思います。

PB システムもアクセサリーも、スタッフの皆さんがいろんなものを聴き比べていないと人に薦めることもできないわけだから、勉強が必要ですよね。

三宅 もちろんです。新商品が入ってきたら、まずはみんなでじっくりと試聴するなどしています。音の印象はアイテムの組み合わせによっても全然違うもの。オーディオ・ラック一つでも変わるんですよ。

PB おー、そうですか。

三宅 そのあたり、「本当はどうなの?」と半信半疑の方は、当店のような場で実際に体感していただきたいと思います。それほどは変わらないと感じれば、それはそれでいいと思いますので。

PB じゃあ、人によっては半日くらいここで過ごすことになる?

三宅 そうですね。土日のイベントに両日とも参加するため、県外から1泊2日で来られる方もいらっしゃいます(笑)。

PB オーディオはけっこうお金がかかるし、買ったらある程度は長く使うものだから、真剣に選びたいですよね。

三宅 高級な趣味と見られるオーディオですが、価格やデザインも含めてその方に合ったものが必ずあります。そんな一品に出会っていただければ、日常生活も豊かになるはずです。さらに言えば、お客様にとってオーディオは買ってからがスタートです。そこから自分好みの音に育てていかれるわけですが、我々のノウハウはそこでも問われます。ご購入後も、しっかりとお手伝いできるようにしていきたいと考えています。

PB なるほど。

三宅 今日はバラカンさんにいろんな音楽を聴かせていただきましたが、曲の背後にあるストーリーを知ったうえで、その音楽を我々が組んだシステムで聴けたのはすごく新鮮な体験でした。我々は普段、こうしたシステムをどう鳴らすかというハード目線になりがちです。私は以前から、音楽とは国や文化や人物などいろんな要素が交ざり合って出来ていることを皆さんと共有したいと思っていました。それが大切だということを、バラカンさんのお話であらためて感じられて嬉しかったし、これからもそういう意識で音楽に接していきたいと強く思いました。そして、販売店として、音楽とオーディオがしっかりとかみ合うようなサーヴィスをお届けしたいとの思いを新たにしました。本当にありがとうございました。

PB こちらこそ、ありがとうございました。A Taste of Musicは、いい音楽をいい音で聴くというのがそもそもの発想です。その意味でも、今日は僕も嬉しかったです。

−−ありがとうございました。

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上から、Accuphase C-2300(プリ・アンプ)、C-47(フォノ・イコライザー)、P-4600(パワー・アンプ)

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上から、ESOTERIC K-05XD(SACDプレイヤー)、N-05XD(ネットワーク・プレイヤー)

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レコード・プレイヤーはDENONの新しいフラッグシップDP-3000NE。ターンテーブルシートはACOUSTIC REVIVE RTS-30

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3ウェイ4スピーカーのSonus faber Olympica Nova III

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カートリッジはAccuphaseのAC-6

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ケーブル類はすべてACOUSTIC REVIVE製品を使用

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シューマン共鳴波による超低周波発生装置、ACOUSTIC REVIVE RR-777も設置されている

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話題の新製品ACOUSTIC REVIVE RHR-21も!

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ACOUSTIC REVIVEのアコースティック・コンディショニング・エキサイターRWL-3 absolutet(左)は、音楽再生に不要な反射音やフラッターエコー、定在波だけを解消するルーム・チューニングの定番アイテム

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この日の持ち込み音源など。なお、ジョニ・ミッチェルの『Shadows and Light』と『Both Sides Now』、ジュリアン・ラージ『Speak To Me』、ジョン・サーマン『Words Unspoken』はe-onkyo music提供のハイレゾも試聴。「今日はハイレゾもすごく良かったですね」とバラカンさん。

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1階の開放的なフロアを探索中

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2階シアター・ルームの全景

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創業者で現会長の三宅文雄さん(右)が陣取るメンテナンス・コーナー。かつての名機を巡り、カウンター越しに話も弾む

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AV機器や照明、空調、電動カーテンなどを簡単に一括操作できるオートメーション機能も盛り込んだ1階のシアター・ルーム

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ゲーミングやDTMを楽しむことを想定したスタジオ仕様の部屋。簡易的な防音性能も確認できる

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試聴イベントやセミナーも開催される2階のラウンジにはバー・カンターも

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とてもフレンドリーなSOUND TECの皆さん。ACOUSTIC REVIVEのお二人も交えて記念撮影

◎この日の試聴システム

SACDプレイヤー:ESOTERIC K-05XD
ネットワーク・プレイヤー:ESOTERIC N-05XD
レコード・プレイヤー:DENON DP-3000NE
カートリッジ:Accuphase AC-6
プリ・アンプ:Accuphase C-2300
パワー・アンプ:Accuphase P-4600
フォノ・イコライザー:Accuphase C-47
スピーカー:Sonus faber Olympica Nova III
*ケーブル類はすべてACOUSTIC REVIVE製品を使用

オーディオ・ショップ
SOUND TEC

1981年創業で、現在は「ホーム・エンターテイメントを全身で体感できる場所」をコンセプトに掲げるオーディオ&ビジュアルのプロ・ショップ。

〒747-0808 山口県防府市桑山2-11-32
Tel.0835-21-5555
営業時間:10:00〜18:00
定休日:水曜日、第1・3火曜日
https://www.sound-tec.com