A Taste of Music vol.432024 02

Contents

◎Peter Barakan’s Best Albums of 2023
 
Kimi Diabaté, Dr. John, Matthew Halsall, Krasno Moore Project, Bob Marley & The Wailers, Thandi Ntuli with Carlos Niño, Cat Power, Billy Valentine, Walter Wolfman Washington, Anna Sato x Toshuyuki Sasaki

◎PB’s Sound Impression
 
ENZO j-Fi LLC. Listening Room……Volumio RIVO, iFi audio iCAN Phantom, NEO iDSD2, Garrard model 301, EMT 927Dst etc.

構成◎山本 昇

Introduction

バラバラの時代のコンセンサス

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 昨年の年頭にもお話ししましたが、個人的に振り返ってみても、音楽の聴き方、出会い方の変化をつくづく感じることが多くなりました。昔は人と会ったり、テレビを観たりすれば、巷で何が流行っているのかは大体分かったものです。インタネットが仕事に深く関わるようになり、レコード会社やレーベルの人たちと直接会う機会が減って、音楽に関する情報もメールのやり取りで得ることが増えました。音源はデータで聴くことがほとんどです。そんな中では、どんな音楽に関心を寄せるかは本当に人それぞれ。今回のA Taste of Musicは、昨年に引き続き僕の年間ベスト・アルバムをご紹介しますが、そのリストは、今回も僕は参加しなかった『ミュージック・マガジン』の“ベスト・アルバム2023”の誰とも、1枚たりとも重なっていません。さらに言うと、誌面の中でも重なっているのはほとんどない。ほんの少し、何人かが選んだアルバムがあっただけです。本当にバラバラの時代だなと。これはやっぱりインタネットが中心の世の中ならではの現象なんだろうと思います。例えばテイラー・スウィフトが世界的に人気だと言われても、「あ、そう」って感じの人も多い。自分にとってのリアリティがそれほど感じられないのでしょう。音楽でコンセンサスを得られることはもはやありえないのかもしれません。

 僕にしてみても、70年代の音楽だけを聴いているかと言えばそうではなく、毎年新しい音楽をたくさん聴いています。今回の年間ベスト・アルバムもほとんどが新しい人たちのものです。ポピュラー音楽は、ジャンル的にもますます多様になっています。制作環境を見ても、今はiPhone一つでアルバムを作ることができるし、レコード会社のお世話にならず、自分の音楽を発表するのも簡単に行える時代です。ソーシャル・メディアを上手く使って、配信での再生回数を伸ばしている個人もいて、面白いと言えば面白い。そして、テイラー・スウィフトやビヨンセ、エド・シーランといった人たちが世界中で何千万人、何億人というファンを持っているわけだけど、聴いていない人にはピンとこない。じゃあ、かつてのビートルズはどうだったでしょうか。たぶん、数字の上ではテイラー・スウィフトのほうが売れているかもしれません。でも、時代に対する影響力という意味ではどうでしょう。もちろん、彼女ら彼らのファンに対する影響力はものすごくあると思うけれど……。まぁ、こんなことを言うのも僕が歳を取ったということでしかないのかも(笑)。

 一方で、ファンの数はそんなに多くはないけれど、インディーズにはすごく個性的で面白いことをやっている人たちがたくさんいます。日々、いろんなところからメールで案内が届いて、中にはどこの国かも分からなかったりするけれど(笑)、興味をそそられる作品もたくさんあるんですよ。今日はトップウイング・サイバーサウンドグループENZO j-Fi LLC.の試聴室で、2023年に僕が素朴に好きだった11枚のアルバムについて実際に音を聴きながら語ります。読者の皆さんにとって「それは知らなかったな。じゃあ聴いてみよう」と思うものが1枚でもあれば嬉しいです。

PB’s Sound Impression

iFi audioとVolumioの最新モデルを試聴
「音響システムの近未来を覗いたように感じました」

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齋藤 今日はiFi audio(アイファイ・オーディオ)のフルバランス・ヘッドフォン・アンプ兼プリアンプの新製品iCAN Phantom、前モデルから進化したDAコンバーターNEO iDSD2、そしてVolumio(ヴォリューミオ)のネットワーク・ストリーマーRIVOといった、昨年発売された新しいデヴァイスを含むシステムでご試聴いただきました。

PB Volumioはデザインがすっきりしていていいですね。この小さなサイズ感もそうだと思いますが、おそらくいまの感覚に合わせたものでしょう。

齋藤 VolumioはドイツのRed Dot Design賞を受賞した高いデザイン性も特徴です。本体はシンプルにして、実際の細かな操作はスマートフォンやタブレットで行うというスタイルですね。Volumio製品に内蔵されるOSの最新ヴァージョンにはあのChat GPTを組み込んだAI機能も追加されていて、強力な検索機能を活用することも可能です。

PB へー、そうなんですか。

齋藤 「Supersearch」と呼ばれるAI検索機能は、アーティスト名や曲名、ジャンルを特定しなくても、聴きたい曲のイメージを伝えるだけで、それに沿うプレイ・リストを届けてくれるんです。

PB 以前のAIが作るプレイリストは、最初はけっこういい感じでも、だんだんズレていくんですよね(笑)。iCAN Phantomのほうもサイズが小さくて、デザインも面白いです。

齋藤 Pro iCAN Signatureの上位モデルでiFi audioの新しいフラッグシップとなるiCAN Phantomのデザインやコンセプトは、ロールスロイスのファントムがベースとなっているそうです。

PB おー、そうですか(笑)。正面の丸い画面も見やすいですね。

齋藤 正面のTFTカラー液晶画面は情報量が豊富です。各種設定のほか、例えば内蔵している真空管のランニング・タイムを確認できるので、真空管の寿命も分かります。

PB えー、そんなことまで。

齋藤 はい、これはいま314時間と出ていますね。

PB 真空管の寿命ってどのくらいなのですか。

齋藤 ものにもよりますが、このGE5670は10,000時間強は使えます。

PB ほう、じゃこれはまだまだ大丈夫ですね(笑)。iFi audioはどこのメーカーですか。

齋藤 イギリスです。AMR(Abbingdon Music Research)というイギリスのハイエンド・ブランドがあるのですが、iFi audioはその姉妹ブランドで、高性能ながら比較的お求めになりやすいプロダクトがラインアップされています。そして、Volumioはイタリアのブランドで、元はネットワーク・オーディオのためのOSを最初に作った会社です。OSの機能を高めていく中で、それをフルに発揮できるハードウェアも自社で手掛けるようになりました。

PB なるほど。そしてこの試聴室には素敵なアナログ・レコード・プレイヤーが2台あります。一つはGarrard(ガラード)の301ですか。最近はあまり見かけなくなりましたけど、名機ですよね。

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50年代のレコード・プレイヤーを前にご機嫌のバラカンさん

齋藤 はい、状態のいいものは少ないと思います。もう一つはEMTの業務用モデル927Dstです。放送局向けのレコード・プレイヤーで、ターンテーブルはガラス製。こちらも1950年代の名機ですね。

PB キャット・パワーの『Cat Power Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert』のアナログ盤をEMT 927Dstで、そしてマシュー・ハルソール『An Ever Changing View』はGarrard 301で試聴しました。アナログで聴いた「Mountains, Trees and Seas」(『An Ever Changing View』)のフェンダー・ローズの音は最高に気持ち良かったです。

齋藤 そうですね。EMT 927Dstは内蔵フォノイコから、 Garrard 301は、デジタルなフォノイコとして機能するM2TECHのADコンバーターJoplin MkIIIと高性能DAコンバーターYoung MkIVを経由してiCAN Phantomに送っています。Joplin MkIIIはデジタル領域にて選択したEQカーヴを正確に提供できます。

PB Volumio RIVOのとなりにあるのは、前回来たときにも聴かせてもらったものですか。

齋藤 前回お聴きいただいたのは、DAC兼ヘッドフォン・アンプのNEO iDSDで、これはその後継モデルのNEO iDSD2です。今日の試聴ではCDとストリーミングで再生用DACとして使用しました。ディスプレイは従来のモノクロからTFTカラー液晶に変更し、非常に見やすくなっています。さらに、据え置きのモデルとして世界で初めて最新のBluetooth 5.4を装備し、新開発のaptX Losslessに対応しているので、スマートフォンからのワイヤレス接続でも高音質で楽しめます。音楽ファンのスタイルに合わせ、進化すべきところは確実に進化させる。iFi audioのそんな姿勢もご好評いただいている理由の一つでしょう。

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ネットワーク・オーディオを中心とした新しい視聴スタイルの魅力を語るトップウイング・サイバーサウンドグループENZO j-Fi LLC.の齋藤薫さん

PB 今日聴かせてもらったストリーミングはMacのラップトップで制御されていましたね。Bluetoothで再生されていたのですか。

齋藤 いえ、実際には同じネットワーク上にあるRIVOで再生しており、パソコンやタブレット、スマートフォンはコントローラーにすぎません。再生ソフトはroon(ルーン)で、RIVOもこれに対応しています。Spotifyのほか、TidalやQobuz(コバズ)といった高音質なストリーミング・サービスも楽しめます。今日の音源はQobuzのもので、ほとんどが96kHz/24bitなどの高音質なハイレゾ・ソースでしたが、Qobuzのサーバーから届いたデータがLANを介してRIVOに直接供給されています。

PB 僕はラジオで放送するためにもCDは手放せないけれど、確かに一般的には音楽の聴き方も変化していますね。

齋藤 そうですね。ネットワーク・オーディオの利点をご紹介している私はCDやアナログ・レコードも好きです。例えばSpotifyで聴いていいなと思ったアルバムをレコードで買ったりしています。

PB 今日は持参したCDとレコード、そしてQobuzのストリーミングで僕の2023年のベスト・アルバムを聴かせてもらいましたが、音響システムの近未来を覗いたように感じました。あとは、この音質と便利さがもっと手軽に享受できればいいですね。

齋藤 例えば、高品質なストリーマーとDACの両方を備えたVolumio PRIMOにパワード・スピーカーと組み合わせれば、ストリーミングを中心としたミニマムな高音質システムが実現します。

PB 我が家には仕事部屋とリヴィングなど、オーディオ装置が複数使あって、昨年はリヴィングでもレコードが聴きたいとTechnics SL-1200MK7を買って十分満足していますが、今後はどう展開するか。数年したらまた変わっているかもしれませんね。
 それにしても、今日は二つの骨董品級のターンテーブルにはまいりました(笑)。EMTのほうは初めて見ましたが、Garrardは僕が学生の頃に、イギリスで持っている人を時々見かけたことはありました。しばらく見ていなかったから懐かしかったです。一方、新しい機材ではVolumioのイタリアン・デザインにやられました。うちの女房もこれを見たら一発で欲しいと言うかも(笑)。

齋藤 ありがとうございます。Volumioは本国の代表も言っていますが、デザインに惹かれるけど機械の扱いが得意ではない、といった方にも簡単にお使いいただけるような設計となっていますので、女性のユーザーにも届きやすいブランドと思います。

PB なるほど。しばらく悩ませていただきます(笑)。

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この日の試聴ではプリアンプとして使用したiCAN PhantomはiFi audioの新しい旗艦モデル。各種静電型ヘッドフォンに対応するためバイアス電圧を指定するデータ・カードを同梱するなどリファレンス・クラスのヘッドフォン・アンプとして完成度の高い仕上がりとなっている。ソリッドステートとGE5670真空管という二つのディ入力ステージはリアルタイムに切り替えが可能。

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イタリアの新進ブランドVolumioのストリーマーRIVO(左)。ラインアップにはこのほか、DACとストリーマーを兼ねるPRIMO、さらにプリメイン・アンプの機能を装備したオールインワン・タイプのINTEGRO(右)もある。モダンなリヴィングにも溶け込むようなデザインも秀逸。
「Volumio製品の各筐体には、昨今のパソコンのようなノイズの原因となる高い処理速度を必要としないオーディオ専用のコンピューターが内蔵されています。Volumio製品はご家庭のインターネット上に追加するだけで、ご家庭のパソコンと直接繋げることなく、ネットワーク・オーディオをいい音で楽しむことができます。さらに不用意なノイズを発生させない専用回路を用いており、結果的にさらにノイズの少ない再生が行えるというメリットもあります」(齋藤さん)

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Bluetooth 5.4を装備したDAC内蔵のヘッドフォン・アンプNEO iDSD2。新開発のaptX Losslessをサポートし、CDクオリティのオーディオ・データをロスレスでストリーミングすることが可能。ヘッドフォン出力は、旧モデルNEO iDSDの5倍に改善され十分なパワーを供給する。DACとしての機能も充実した、PCオーディオにも親和性の高い実力機。

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CDの再生はREAVONのユニバーサル・プレイヤーUBR-X110をトランスポートとして使用(中段・左)。1080pフルハイビジョンの4倍の解像度を持つ最新のディスクフォーマットUltra HD Blu-rayにも対応。

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M2TECHの“Rockstarsシリーズ”も進化中。左はデジタル・フォノイコとして使用したJoplin MkIII(筐体のカラーは現行モデルとは異なります)。右はI2Sのデジタル出力を受けてD/A変換するYoung MkIV

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Garrard model 301。二つのSMEトーンアームでステレオとモノラルを聴けるようになっている。

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EMT 927Dst。鉄板エコーでお馴染みのEMTが製造していた放送局向けのレコード・プレイヤー。

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スピーカーは30cmウーファーを搭載したJB L100 Classic

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パワーアンプはM2TECH CrosbyをBTL接続で片ch1台ずつ使用。

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ストリーミングで試聴したタイトルがroonのプレイリストに。

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試聴したディスク(CDとLP)

◎この日の試聴システム

【CD/ストリーミング】
ネットワーク・ストリーマー:Volumio RIVO
ユニバーサル・プレイヤー:REAVON UBR-X110
DAコンバーター:iFi audio NEO iDSD2

【LP】
レコード・プレイヤー:Garrard model 301、EMT 927Dst
フォノ・イコライザー:M2TECH Joplin MkIII
DAコンバーター:M2TECH Young MkIV

【以下共通】
プリアンプ:iFi audio iCAN Phantom
パワーアンプ:M2TECH Crosby
スピーカー:JB L100 Classic


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