A Taste of Music Vol.182017 02

by TAD
image Contents

◎Live Reviews
 
Alabama Shakes, 小坂忠

◎Featured Artist
 
The Rolling Stones

◎Recommended Albums
 
The Rolling Stones『Blue & Lonesome』,
Norah Jones『Day Breaks』

◎Coming Soon
 
BUIKA

構成◎山本 昇

Introduction チャールズ・ロイド・トリオ+ビル・フリゼルの静かなライヴ

 今日は日本のオーディオ・ブランド「テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ」のオフィスがあるパイオニアの川越事業所にやってきました。観光地になっている小江戸には何度かテレビの撮影で訪れたことはあるのですが、とても雰囲気のいいところですね。今回のA Taste of Musicは、この事業所の中にある試聴室から、TADのオーディオを聴きながらお贈りします。

 まずお話ししたいのは、前回の“Coming Soon”でご紹介した、チャールズ・ロイドの来日公演(2017年1月、ブルーノート東京)です。僕は2日目のステージを見たのですが、本当に素晴らしかったです。面子はチャールズ・ロイドのトリオ+ビル・フリゼル。とにかく静かな印象のライヴでした。エリック・ハーランドのドラムも素晴らしく、躍動感があるんだけど音はそんなにでかくない。ベイスもルーベン・ロジャーズが弾くのはエレクトリック・ベイスで、ときどきファンキーな弾き方もするんですが、全体としてはすごく抑えた感じでした。ビル・フリゼルのギターも本当に繊細で、僕のラジオ番組のあるリスナーが寄せてくれた印象では、ギターの音よりもエフェクトのペダルを踏んだときの「カチッ」という音のほうが大きかったとか。それはちょっと大げさな表現かなと思いますが。そして、チャールズ・ロイドも元々すごく繊細にサックスやフルートを吹く人です。特にテナー・サックスは、まるで歌っているみたいなんですが、子供時代は歌が上手だったらしいんですね。まさに、ブルーノート東京の親密な雰囲気に合った、とてもいいライヴでした。

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チャールズ・ロイドの歌うようなサックス・プレイ[撮影◎佐藤拓央]


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繊細な演奏を披露したビル・フリゼル[撮影◎佐藤拓央]


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そしてルーベン・ロジャーズ(B)とエリック・ハーランド(Ds)[撮影◎佐藤拓央]


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TADの試聴室で音楽に聴き入るバラカンさん

Live Reviews かつてのソウルの雰囲気を感じさせる彼らの日本ツアー Alabama Shakes at STUDIO COAST

 さて、ここからは、僕が昨年12月に観た二つのライヴについてお話しします。最初は12月12日、新木場STUDIO COASTで観たアラバマ・シェイクスです。まだ若いバンドなんですけど、初めて日本に来たのは4年ほど前で、しかもリキッド・ルームのみの公演だったから、観たくても観られなかった人が多かったはずです。今回は東京から名古屋、大阪、福岡を回りました。独特のサウンドを持った彼らは、名前のとおりアメリカ南部アラバマ州で結成されたバンドです。アラバマと言えば、マスル・ショールズというスタジオが有名ですが、そのサウドに代表されるような1960年代後半から70年代前半くらいまでの南部のソウルの雰囲気を濃厚に醸し出しているグループなんですね。ただ、それでも現在の若い世代ですから、当時の音とはもちろん違います。でも、今の音楽シーンの中では、ちょっと珍しい存在です。現在のメンバーは、ヴォーカリストでギタリストのブリタニー・ハワードという女性と、ベイスのザック・コックレル、もう一人のギタリストのヒース・フォッグ、ドラマーのスティーヴ・ジョンソンの4人です。

 今回の来日では、さらにキーボードが2人、バック・ヴォーカルが3人加わったから、けっこうな大所帯となっていました。ブリタニー・ハワードは体格も大きくて声の迫力もすごい。そんな彼女のカリスマ性で持っているグループでもあります。ほかのメンバー3人は、どこか田舎者というか、気の利いた服を着るわけでもなく、髪の毛もボサボサでショウマンシップも何もない。ただひたすら、地道に楽器を演奏するだけです。STUDIO COASTはかなり広い会場ですが、観客は満杯で1階のアリーナは人の頭で海のようになっていました。そんな状況ならなおのこと、普通は“魅せる”努力をするものですよね。ブリタニーはそれなりにお客さんを乗せようとする姿勢は感じられますが、着ている服は普通で、ステージ衣装をどうにかしようという意識はほとんどない。そんな感じだから、どんなに音楽が良くても、観ているお客さんは途中で飽きてしまいそうなものです。その分、このライヴでは照明がものすごく凝ったものでした。曲ごとのリズムに合わせて、照明も小刻みに変わっていくんです。ステージ上はあんなに地味なのに(笑)、そこまで照明で演出するのかと最初は驚きましたが、終わってみればちょうど良かったかもしれません。

 演奏はばっちり、すごくタイトです。わりとジャムふうにやってもおかしくないような音楽だけど、曲は短めに抑えて、バシッと決めるところは決めている。かなり洗練された曲作りや演奏と、見た目のアンバランスさが面白いというか(笑)。アンコールを入れて1時間30分くらい。彼らにはアップ・テンポの曲がほとんどなくて、ミディアム・テンポのわりと似た印象の曲が多いから、それもちょうど良かったと思います。でも、とても充実した、いいコンサートでした。

大所帯で来日したアラバマ・シェイクス[撮影◎古溪一道]

大所帯で来日したアラバマ・シェイクス[撮影◎古溪一道]

貫禄のブリタニー・ハワード[撮影◎古溪一道]

貫禄のブリタニー・ハワード[撮影◎古溪一道]

光の演出も見事だったステージ[撮影◎古溪一道]

光の演出も見事だったステージ[撮影◎古溪一道]

大観衆で埋まった新木場STUDIO COAST[撮影◎古溪一道]

大観衆で埋まった新木場STUDIO COAST[撮影◎古溪一道]

Live Reviews 新作『CHU KOSAKA COVERS』のお披露目パーティ 小坂忠 at CLUB eX

 もう一つご紹介したいのが、12月19日に行われた小坂忠の「『CHU KOSAKA COVERS』Release Party」というコンサートです。品川プリンスホテルの敷地内にあるクラブeXという、さほど広くはない会場で行われました。忠さんが、昨年の秋に出した初のカヴァー・アルバムのお披露目というわけですね。彼が最近一緒にやっているバンドは強者揃いです。リーダーでベイスの小原礼、ドラムは屋敷豪太、ギターは鈴木茂と佐橋佳幸、キーボードがDr.kyOn、サックスに小林香織、そしてLAに住んでいる忠さんの娘、Asiahがバック・ヴォーカルで参加しました。すごくいいこのバンドは、アルバムを作ったメンバーでもあります。

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『CHU KOSAKA COVERS』日本クラウン CRCP-40477

 僕は単に客として観に行くつもりだったのですが、忠さんのマネージャーから、わりと直前になって当日のMCを頼めないかと連絡がありました。このアルバムではモータウン、スタックス、サム・クックなどソウルの曲が取り上げられています。キング・カーティスの1971年のライヴ盤『Live at Fillmore West』は、アリーサ・フランクリンのバックを務めた彼のバンドの前座部分を録音したものですが、このアルバムは「Memphis Soul Stew」というファンキーで楽しい曲で始まります。タイトルどおり、「ベイス(ジェリー・ジェモット)はティー・カップ半分、ドラム(バーナード・パーディ)は1パウンド……という感じで、料理をするようにメンバーを一人ひとり紹介しながら楽器を重ねていくという面白い展開の曲なんです。小原礼がこれをやろうと言い出して、誰か英語を話せるヤツはいないかと(笑)。僕はアメリカ人ではなく、黒人でもないから、あの感じが出せるかどうかは分かりませんでしたが、面白そうだと思って引き受けたわけです。そんなことで当日を迎えると、さらにカヴァー曲についてのトークを忠さんとぶっつけ本番でやることになって、思っていたより出番が多くなってしまいました(笑)。でも、楽しかったですが。

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左から、小林香織、屋敷豪太、Asiah、ピーター・バラカン、佐橋佳幸、Dr.kyOn、小原礼、小坂忠、鈴木茂


 僕にとって忠さんは、アルバム『HORO』が1975年に出た当時によく耳にして、日本にもこんなに本格的なソウル・シンガーがいるんだと感心したものです。その『HORO』を35年ぶりに歌だけを録音し直した『HORO2010』(2010年)が出たときは、僕もラジオでよくかけていました。Inter FMの編成に携わっていたとき、日曜の朝にゴスペルの番組をやったら面白いというアイデアが出て、それを牧師でもある忠さんに頼もうという話になったんです。結局のところ、ゴスペルの番組は実現しなかったのですが、彼がすでに持っていた東北のコミュニティFMの番組をInter FMで制作し、それまでどおり東北各県のコミュニティFM局に無償で供給することになったんです。ちょくちょく顔を合わせるようになったのはその頃からですね。ステージで歌うと声もいいし、存在感があるんですが、しゃべると至極普通の感じで、はったりとかそういうのが全然ない人ですね。

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3月には「小坂忠 featuring 鈴木茂、小原礼、Dr.kyOn、屋敷豪太」が、23日(木)にビルボードライブ大阪で、28日(火)にビルボードライブ東京で開催

Featured Artist ブルーズやR&B、ソウルにリスナーを導くストーンズ The Rolling Stones

 ローリング・ストーンズは元々ブルーズ・バンドを目指していました。シカゴ・ブルーズを少しでも多くの人に知ってほしいという使命感を持って始めたバンドです。もちろん、その後の長い活動の中で変わっていった部分もあるわけですけど、彼らの音楽のルーツは相変わらずそこにあり、煮詰まったときにはシカゴ・ブルーズに戻ってくる。これはなかなか美しい話だと思います。僕はストーンズをデビューしたときからリアルタイムで聴き続けていますが、端的に言えば彼らの影響でブラック・ミュージックが好きになりました。まぁ、ビートルズもそうですけれど、ストーンズがいたからこそ、いまの自分がいるようなものです。

 僕は特に初期のストーンズが好きで、リズム&ブルーズとかソウルとか、彼らのおかげでそういう音楽に少しずつ親しむようになりました。マディ・ウォーターズもそうだし、オーティス・レディングも2枚目の『The Rolling Stones No.2』でカヴァーしていた「Pain in My Heart」で初めて知ったようなもんですから。あの頃は、そういうふうにして教えられることがすごく多かったですね。もちろん、ビートルズも初期はいろんな曲をカヴァーしていましたが、彼らはモータウンやガール・グループの曲などをよく取り上げていましたね。リズム&ブルーズの中でいちばんポップなチャック・ベリーはみんなが共通してやっていましたが、ビートルズはブルーズ・バンドには向いていない。それは本人たちも分かっていたと思います。だからこそ、無理にブルーズをやろうとはしなかったのでしょう。ジョン・レノンは好きそうですけど、バンドとしてはそっちのほうには行かなかった。ビートルズもストーンズも、それぞれに適した方向に歩んだから良かったんだと思います。

 ストーンズがちょっとサイケデリックになった時期は、僕にとっては彼ららしいとは思えなくてあまり聴いていませんでした。その後の『Beggars Banquet』(1968年)では初期の雰囲気に戻ったのでまた好きになりました。ここから1972年の『Exile on Main St.』まではどのアルバムも、甲乙付けがたい力作ばかりです。次の『Goats Head Soup』(邦題は『山羊の頭のスープ』1973年)はいまひとつ好きな曲がなくて、『It's Only Rock'n Roll』(1974年)は、はっきり言ってつまらなかった。あの頃から、「世界一のロックン・ロール・バンド」というようなレッテルを背負うことになったんですね。本人たちはどう意識していたかは分からないけれど、どこの雑誌でも必ずそういうふうに書かれるようになるとロクなことはないと思うんですよ。あんまり一生懸命やっている印象もなくて……。ヒット曲がないわけではありませんが、個人的には用がないということが多かったんです。もちろん、これはあくまでも僕の個人的な感想でしかありませんが。

 そんなわけで、昨年末に出た全曲ブルーズのカヴァーという新しいアルバム『Blue & Lonesome』は、僕にとって『Exile on Main St.』以来のヒット作となりそうです。発売前に、どうやらこんなアルバムになりそうだというニューズを耳にしたときは、やや眉唾な気持ちだったんですが(笑)、聴いてみたらビックリするほどいいアルバムでした。「やっぱりこの人たちにはこれがあるじゃないか」と、強く思いました。

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Recommended Albums The Rolling Stones『Blue & Lonesome』 ストーンズらしさ溢れる全曲ブルーズ・カヴァー作

 それではローリング・ストーンズのカヴァー・アルバム『Blue & Lonesome』について見ていきます。彼らにとって、カヴァー曲ばかりのアルバムは恐らく今回が初めてでしょう。ファースト・アルバム『The Rolling Stones』もほとんどがカヴァーでしたが、オリジナルも3曲入っていましたよね。今回のアルバムは、彼らのルーツに戻るような内容です。でも、それを最初から企画して作ったわけではなくて、たまたまやってみたら勢いに乗って、たった3日間でアルバム1枚分の曲が録れちゃったということらしいですね。TBSのテレビ取材で、ロニー・ウッドが語ったのを聞いて、「なるほど、そういうことだったのか」と思いました。当初はオリジナルの新曲を作るつもりだったけれど、なかなか進まなかったそうなんです。あれだけ長くやっていると、そう次々に曲ができるものでもないでしょうね。ある曲で、キース・リチャーズはミック・ジャガーにハーモニカを吹いてほしいと思っていたそうです。でも、だからと言って直接そう頼んでも、思い通りにやってくれるわけでもないようで。そこで、どうしたらミックがその気になってくれるかをキースが考え、ロニーには、今度のアルバムのタイトル曲になったリトル・ウォルターの「Blue & Lonesome」を覚えておくように言ったそうです。それで、スタジオでちょっと煮詰まったときに、キースが気分転換に「Blue & Lonesome」でもやらないかと促します。そうしてやってみたらキースの目論みどおり、ミックが歌いながらハーモニカを取り出して吹いたんだそうです。もちろん、レコーディング・エンジニアは抜け目なく録音ボタンを押しています。プレイバックしてみると、「おお、いいね!」ということで、さらにもう1曲、ほかのもやってみようということになったそうなんですね。

 そんなふうに、次々と自分たちが好きな古いブルーズの曲を1日で5曲も録ったそうです。その日のセッションの後、ミックは自分のパソコンの中にあるブルーズの曲をいくつか聴き直すと、翌日のスタジオで「これをやろう」とみんなに聴かせるんですね。そのときにはもう、そういうアルバムを作ろうというのは頭に浮かんでいたのかな。そのようにして、3日間で12曲−−−詳しくは2015年の12月11日に5曲、3日後の14日に6曲、15日に1曲を録りきったということなんですね。だからこのアルバムは、キースがミックに新曲でハーモニカを吹いてほしいという想いから出来上がったとも言えるわけです。ストーンズの場合、新曲の録音にはものすごい時間がかかるらしいんです。今回は自分たちが好きなブルーズをラフに、さほどテイクを重ねずに仕上げたそうですね。

 このレコーティングは、元ダイアー・ストレイツのマーク・ノップフラーが持っているブリティッシュ・グローヴというスタジオで行われました。ストーンズはデビュー当時、ロンドンの西南に位置するリッチモンドのクローダディー(Crawdaddy)というクラブでハコバンをしていました。そのリッチモンドのすぐそばにツィケナムという街があって、そこを流れるテムズ川にイール・パイ・アイランド(Eel Pie Island)つまりウナギ・パイの島という小さな中州があるのですが、どうやらそこにブリティッシュ・グローヴ・スタジオはあるようです。そこには二つのスタジオがあり、もう一つのスタジオではエリック・クラプトンがミックスの作業をするために来ていたらしいんですね。当然、エリックとストーンズは昔からの顔なじみですから、「こっちに来いよ」ということで(笑)、結局2曲でギターを弾いています。

 ただね、エリックが参加しているのはいずれもアルバムの中ではわりと知られている曲なんですね。一般的に言ってこういう企画は、オリジナル曲があまり知られていないほうが、効果が大きいと思うんですよ。誰でも知っている曲だと、元の曲と比較されてしまうじゃないですか。特にいちばん最後のオーティス・ラッシュの名曲「I Can't Quit You Baby」なんかは、この曲をストーンズがやるべきではなかったんじゃないかなと思いました。もう1曲の「Everybody Knows About My Good Thing」はすごく有名というほどではないけれど、まぁ、そこそこ知られたナンバーで、70年代の初頭にリトル・ジョニー・テイラーというブルーズっぽいソウル・シンガーの一応ヒット曲ではあります。これはこれとして、みんながあんまり知らない曲を採り上げるほうがストーンズらしさは出しやすいのではないかなと思います。実際にあとの10曲を知っている人は相当少ないと思いますね。リトル・ウォルターが4曲、ハウリン・ウルフが2曲、あとはマジック・サムやエディ・タイラー、ジミー・リードなどなど。ごくシンプルにできたアルバムなんだけど、ストーンズらしさに溢れたレコードだと思いました。ただし、このジャケットはお粗末です(笑)。

 それではTADのオーディオ・システムで、このアルバムから「Commit a Crime」、「All of Your Love」、「Little Rain」あたりを聴いてみましょう。確かに録音は、何度も取り直したり編集したりせず、ラフな感じをそのまま打ち出しているようですが、それがかえってすごくきれいに聞こえます。このスピーカーのおかげかもしれないけど、本当にスタジオで聴いているような感じがしますね。音がすごく活き活きしている。彼らのロックン・ロールのアルバムにも、こういう感じがほしいね。スタジオ機材に頼って作り込み過ぎるよりも、こういうラフなままのロックン・ロールができるなら、ある意味では理想的だということもある。ミックスもそんなに手の込んだことはしていないし、こういうアルバムはやり過ぎると面白くなくなっちゃう。そこはプロデューサーのドン・ウォズらが上手くやっているようで、バランス加減がちょうどいいですね。

 そして、彼らの演奏ですが、やっていることはデビューした頃とほとんど変わりません。では、二十歳の頃と70歳を越えたいまと何が違うかというと、長く生きただけの人生経験は歌や演奏に微妙に表れるんですね。説得力の違いと言うのかな。ストーンズがデビューしたとき、ブルーズは中年の人たちがやっている音楽だったんですね。あの60年代、ロックン・ロールのほうは大体30歳くらいまではやれるのかなという感じだったんです。でも、マディ・ウォーターズもハウリン・ウルフも当時すでに50歳くらいだったわけだけど、何もおかしくなかった。いまの若いリスナーがローリング・ストーンズを見てどう感じるかは分からないけれど、不思議とあの歳でロックをやり続けていてもおかしくはない時代にはなりました。そしてまた、彼らもブルーズがよく似合う歳になりましたよね。

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『Blue & Lonesome』ユニバーサルミュージックより発売中

Recommended Albums Norah Jones『Day Breaks』 久々に彼女のピアノも堪能できる最新作

 昨年10月に発売されたノーラ・ジョーンズの『Day Breaks』は、前作『Little Broken Hearts』のあと2人の子供を生んだ彼女が4年ぶりに作った新作です。僕はこのアルバムが大好きで、2016年の年間ベスト10の一つに選びました。今回は久々にピアノ中心のレコードです。一時期は、ギターを中心としたシンガー・ソングライターというか、そんな感じのレコードが続いたり、リトル・ウィリーズというカントリーのバンドを結成したり、グリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングとエヴァリー・ブラザーズみたいなアルバム『フォーエヴァリー』を作ったり、あるいは映画に出演してみたりと、たぶんその都度、売れるかどうかはあまり考えずに自分のやりたいことをやってきた人なんだと思います。

 2001年に出した最初のアルバム『Come Away with Me』がジェシー・ハリスの曲「Don't Know Why」のおかげもあって大ヒットに。まだ若かった頃に出したこのデビュー作は、これまでに世界で4,500万枚以上売れたそうですが、そんな人気者になるなんて思ってもみなかった彼女は当時、相当悩んだらしいですね。その後はあまり目立たなくしようと考えたのか、後にリトル・ウィリーズという名前を付けた仲間とニューヨークの小さなライヴ・ハウスに匿名で出演していたそうです。もちろん、すぐにバレるわけですけど、彼女なりにバランス感覚を持って音楽活動をしていたということなのでしょう。でも、なんだかんだ言いながら、彼女の個性はあのピアノのサウンドにあって、そこがすごく大事な一部分だと僕は思いました。このニュー・アルバムでも、ピアノはごくシンプルなのに、ちょっと聴いただけですぐに彼女の音だと分かります。これはすごい宝物ですよね。久しぶりにこのピアノがたっぷり聴けるというだけでも嬉しいのですが、今回はまたかなりいいミュージシャンが揃っていて、ジャズ畑からはウェイン・ショーター、ジョン・パティトゥーチ、ブライアン・ブレイドらが参加しています。

 ノーラ・ジョーンズはデビュー作からブルー・ノート・レーベルでアルバムを出していることもあり、ジャズという括りの中で語られることが多いのですが、実際の歌を聴くと最初からあまりそういう印象はなかったのです。テクサスで育ったからか、カントリーっぽい印象も強いのですが、最近読んだ彼女のコメントは、「私はジャズのドロップ・アウト」というものでした。ジャズが好きで始めたけど、「途中で中退したわ」と(笑)。でも、例えばウェイン・ショーターらがバックを務める8曲目の「Peace」はホレス・シルヴァーの曲で、彼女はデビュー前にも歌っていたからかなり好きな曲だと思うんですが、これを聴くと、やっぱりこの人はジャズ歌手としてもやっていけるなと思います。

 今回は、オリジナル曲のほかにカヴァーを3曲収録しています。いまお話ししたホレス・シルヴァーの「Peace」、デューク・エリントンの「African Flower」、そしてニール・ヤングの「Don’t Be Denied」です。ノーラ・ジョーンズとニール・ヤングには、子供の頃にお父さんが不在だったという共通点があるのですが、この曲にはそんな頃の話が出てきます。また、音楽業界に対する幻滅した気持ちも歌詞に表れているのですが、そういった部分にも彼女は共鳴しているようです。ホレス・シルヴァーもやればニール・ヤングもやるというのも、ちょっと面白いセンスですよね。これまでも、ややメッセージ・ソングっぽい曲もあったけど、思い切り強いメッセージまでは行かないのが彼女のやり方なのでしょう。自分のことに引き戻したり、いろんな意味にとれるようにしていたり。以前はブッシュ政権批判みたいな曲もありましたが、今回のアルバムではそこまでは言っていないようです。まぁ、彼女ももう、デビューから15年にもなりますし、母親にもなって、変わっていった部分もあるのでしょうね。いまは子育て中心の生活で、子供たちの世話をしている中で、ちょっと手が空いたときにすぐ弾けるよう、台所にピアノを置いてあるらしいですね(笑)。この『Day Breaks』は、僕にはデビューの頃よりも、深みのある作品になっていると感じました。

 それでは、CDで「Peace」を聴いてみましょう。ウェイン・ショーターはいまや83歳ですけど、まだバリバリ吹いてますね。続いてハイレゾで2曲目の「Tragedy」を。この曲はいかにもノーラ・ジョーンズらしいというか(笑)。この曲もそうですけど、今回のアルバムのほとんどの曲にはハモンド・オルガンが入っているのですが、それがちょっと面白い隠し味になっていて素晴らしいんです。そして、彼女の歌い方の−−ピアノもそうですけど−−気だるいところ、ゆったりした感じは彼女の持ち味ですが、僕にはそれがすごくセクシーに感じます。女の人が醸し出す、そんなゆったりした感じって、すごく色っぽい。やっぱりいいね、このアルバムは。

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『Day Breaks』ユニバーサルミュージック UCCQ-1065

Coming Soon 一度聴いたら忘れられない声を持つ女性シンガーの来日公演 BUIKA 2017 3.4 sat. BlueNote TOKYO

 今回、僕がお薦めしたいのは、3月4日にブルーノート東京で来日公演を行う女性歌手のブイカです。アフリカ系のスペイン人で、生まれたのはマヨルカ島。いまはマイアミに住んでいるそうです。今年で45歳になり、すでにアルバムを7〜8枚ほど出していますが、音楽だけでなく、詩を書くなど作家としての活動も行っているようです。彼女の両親はカメルーンの南にある赤道ギニアという小さな国から亡命してスペインへ渡ったらしいです。そんな彼女のヴォーカル・スタイルは、基本的にはフラメンコで、非常にエモーショナルな歌い方をします。しかも、アフリカ系の人ならではの声帯によって、太くてちょっと低め。一度聴いたら忘れられない声の持ち主です。僕が聴き始めたのは2006年あたりですが、その頃のアルバムはハヴィエル・リモーン(Javier Limón)という同じくスペインのプロデューサーが手掛けていました。彼はフラメンコをジャズっぽく発展させたようなアルバムをよく作る人です。自身もミュージシャンで、スペインの若い世代による新しいタイプのフラメンコ解釈というものを示しています。彼の音作りとブイカの声で、本当に独特の音楽が出来上がり、ずいぶん話題になりました。2008年にも来日していて、僕はそのライヴを観たのですが、すごく良かったんです。フラメンコやジャズ、そして最新作の『Vivir Sin Miedo』(2015年)ではさらにヒップ・ホップの要素も見え隠れしていますね。いろんなタイプの曲に挑む、とてもいい歌手です。久々の来日ですが、とても楽しみです。
 
 ところで、同じく3月にはコットン・クラブに、才能ある中堅ドラマーの一人であるエリック・ハーランドがカルテットで来日します(ERIC HARLAND QUARTET- Voyager - 2017. 3.10.fri - 3.12.sun)。冒頭でご紹介したチャールズ・ロイドのライヴでも観ましたが、すごく歯切れのいいドラムを叩く人です。軽やかさもある一方で、ずっしりとしたファンキーなビートも表現できる。そんなクリエイティヴなドラミングという印象でした。一緒に来るピアノのテイラー・アイグスティも以前ライヴを観ましたが、とてもいいミュージシャンだと思いました。

PB's Sound Impression TADの最新モデル「TAD-ME1」を聴く 「この小さなスピーカーの存在感はすごかったです」

 今回の訪れたのは、パイオニアの川越事業所の中にある「テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ」の試聴室です。そこで私たちを迎えたのは、昨年末に発売がスタートしたTADの新製品「TAD-ME1」。前回(Vol.13)フィーチャーしたTAD-CE1よりも一回り小ぶりのスピーカーですが、TAD社長の平野至洋さんが「ハイエンド・オーディオとしてのクオリティを下げることなく開発した新しいエントリー・モデルです」と紹介したとおり、音質・迫力とも素晴らしく、「CDもハイレゾ(e-onkyo music)も、どちらもいい音で聴けました」とご満悦のバラカンさんに、あらためてこのスピーカーの印象を伺ってみました。

「このスピーカーはすごくいいです。最初にストーンズを聴いたとき、“うわー、スタジオの中にいるみたい”と、そんな感じがしました。それほど大きくはないのに、まるで後ろにある巨大なスピーカー(TAD-R1MK2)が鳴っているような気がするほどの存在感がありました。ベイスの音も活き活きとしていたし、そのほかの楽器の精細な部分も全部すごくよく聞こえる。フラメンコ・ギターの雰囲気も上手く表現されていました。アクースティックな音楽も、パワーのあるロックも、忠実に鳴らせてくれていたと思います。それには、見るからに高級そうなこのアンプのおかげもあるのでしょうけどね。いやぁ、恐れ入りました(笑)」

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製品の音作りや評価にも使われている試聴室は、ややデッドな特性となっている

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完全対称設計のモノラル・パワーアンプTAD-M600の定格出力は600W(4Ω)

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優れたD/A変換精度を誇るCD/SACDプレーヤーTAD-D600

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ハイレゾの再生は、MacBook Pro + Audirvana Plusで

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高品位な専用パーツを厳選して投入したプリアンプTAD-C600

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トゥイーターとミッドレンジを同軸に配置した3ウェイ構成のTAD-ME1。ユニットはすべて新規に開発されている

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TAD製品(スピーカーを除く)の組み立て作業を見学

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今回のバラカンさんによる持ち込みCD

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◎試聴システム

スピーカー:TAD-ME1
パワーアンプ:TAD-M600
プリアンプ:TAD-C600
CD/SACDプレーヤー:TAD-D600TAD-D1000MK2(但しDDコンバーターとして使用)