A Taste of Music vol.052014 02

by TIMELORD
image Contents

◎Featured Artists
 
濱口祐自
細野晴臣×坂本龍一

◎Recommended Albums
 
濱口祐自『竹林パワーの夢』
細野晴臣『Heavenly Music』

◎Coming Soon
 
ROBERTO FONSECA

構成◎山本 昇

[ Introduction ]

 2014年最初のA Taste of Musicは、ここ六本木にあるタイムロードのショールーム「遊」に戻ってきました。そして、今回は初の試みで、抽選で選ばれた読者の方たち数名が遊びに来てくれています。今年も楽しい音楽をどんどん紹介していきますので、よろしくお願いします。
 さて、前回のA Taste of Music Vol.04では、お勧めのライヴを紹介するComing Soonのコーナーで、ゴンサロ・ルバルカバ率いる新グループVOLCÁNを取り上げました。まずはそのステージを観た印象からお話ししましょう。
 ライヴの醍醐味と言えば目で観る楽しさがありますが、その意味では打楽器の二人−−オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデス(ドラムズ)とジョヴァンニ・イダルゴ(コンガ)−−にはとてもワクワクさせられるものがありました。めちゃくちゃ難しいことをやっているはずなのに、「こんなの朝飯前ね」みたいな感じで、終始ニコニコしながら楽しそうにやっている(笑)。これにゴンサロとホセ・アルマンド・ゴラ(ベイス)も加わって4人がリズムを通じて会話しているようです。観ているほうは、そんな刺激的な演奏に度肝を抜かれながらも、やっぱり楽しくなってくるというとてもいい音楽体験をすることができました。ライヴを見逃した方は、ぜひCDを聴いてみてください。



[ Featured Artist ]

濱口祐自

南紀勝浦に埋もれていた異色のギタリスト

 A Taste of Musicではこれまで、洋楽アーティストだけを紹介してきましたが、別にそうと決めていたわけではありません。今回ご紹介するのは、濱口祐自という日本人です。つい最近まで、和歌山県は那智勝浦の漁村に埋もれていたギタリストで、僕は彼の演奏を1月8日に渋谷のライヴハウス“サラヴァ東京”で観ました。なんとなく異国情緒の漂う日本人離れした雰囲気ですが、とてもナチュラルな楽しい人です。

 まだそれほど曲数を持っているわけではないようですが、ボトルネックを使ったブルージィなもの、ラグタイムやスウィング感のあるジャズっぽい曲など、いろんなタイプの曲を演奏します。ライ・クーダーが好きなのだそうで、実際に、彼が有名にしたバハマのギタリスト、ジョーゼフ・スペンスの「Great Dream From Heaven」も弾いていました。かと思えばエリック・サティの「グノシエンヌ」をやったりと、ずいぶん幅広い音楽を聴いている人です。そして、どれもが独特のゆったりとしたサウンドになっています。
 そんな彼はギターのチューニングにすごくこだわっているそうです。きっと耳がいいんでしょうね。ただ、ほとんど曲ごとにチューニングを変えたり直したりするんだけど、その間はずっとしゃべりっぱなし(笑)。おそらくライヴの半分くらいはMCだったんじゃないかな。

 実は彼のことを、「こんな面白い人がいるよ」と教えてくれたのが久保田麻琴です。麻琴さんとはもう30年以上前、僕がYMOの事務所で仕事をしていた頃からの付き合いで、初めて会ったのは彼がサンディー&サンセッツとして活動していたときでした。彼のことは夕焼け楽団の頃から知っていて、「いい音楽をやっているな」という印象を持っていました。たまに会っては音楽の話をしてきましたが、とても波長の合う人です。彼が世界のあっちこっちを旅しながら紹介する音楽はどれも面白いんですよ。とても鋭い嗅覚を持っている人なんでしょうね。その麻琴さんが「すごいギタリストを見つけた」と、送ってくれた音楽ファイルを2曲ばかり聴いてみたら、やっぱりいい。それでライヴはどんなものかなと観てみたら、これがまたとっても良かった。音そのものだけじゃなく、その人の演奏が作り出す空気も感じられるというか……。人間だれしも、その人の心の在りようが音に出るものだと思うけど、和歌山の最南端の辺鄙なところで生まれ育った濱口祐自という人のピュアな部分がよく聴き取れたと思います。

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「Makoto Kubota presents 熊野 meets 秩父 feat. Yuji Hamaguchi special guest Shin Sasakubo」に出演した濱口祐自。2014年1月8日、サラヴァ東京にて。


[ Featured Artist ]

細野晴臣×坂本龍一

素朴な楽しさを感じさせたアクースティックなYMO

 ライヴのお話をもう一つ。昨年末、細野晴臣さんができたばかりのEXシアター六本木で行った2デイズ・ライヴを両日とも観てきましたが、初日(12月21日)の公演は「細野晴臣×坂本龍一」という、ちょっと珍しい名義のコンサートでした。主にアクースティック・ギターの細野さん、アクースティック・ピアノの教授(坂本龍一)が、一緒にやったり、ソロになったりして、それにボサノヴァ・ギターの第一人者として知られる伊藤ゴロー、このところ細野さんとよくセッションしている青葉市子、さらに小山田圭吾、ユザーンといったゲスト・ミュージシャンが加わりました。
 互いにソロ・アルバムで取り上げている曲やYMOの楽曲も演奏されましたが、テクノではなく、アクースティック楽器向けにまるっきり違う編曲が施されているので、「あれ? この曲は何だっけ」と一瞬考えるけど、メロディを聴いて「あっ、そうか」って感じで。最後のほうでは高橋幸宏も登場。最初はその大人しい感じの演奏に、うまくのれない様子だった観客も、一気に電気が走ったようでした。全体的には素朴な感じのする、ちょっと不思議なライヴでしたが、楽しかったですね。

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2013年12月21日、EXシアター六本木で行われた珍しいデュオ名義「細野晴臣×坂本龍一」のライヴ。撮影:高木将也


[ Recommended Albums ]

濱口祐自『竹林パワーの夢』

久保田麻琴のリマスターで甦った自主制作盤

 濱口祐自の活動はライヴが中心で、アルバムとしては1997年に『竹林パワーDream』という自主制作CDがありましたが、これは彼が自分でMDに録音したものだそうです。そこで、久保田麻琴がリマスターを手がけ、さらに2003に発表した日本唱歌のカヴァー集『Our Hearts』からの3曲をボーナス・トラックに加え、『竹林パワーの夢』というタイトルでつい先日出し直されました。

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新作も待ち遠しい濱口祐自。4月には東京でのライヴも!

 今日はこの『竹林パワーの夢』を、麻琴さんがマスターから直にコピーしたディスクを送ってくれたので、それを解像度の高いオーディオで再生し、みんなで聴いてみたわけですが、実にいい音ですね。元がMDだったとは思えない(笑)。アルバムをとおして聴いてみると、クラシックっぽくもあり、フォーキーな感じもあり、ハワイのスラック・キーのようでもありと、ジャンル分けができない音楽ですね。あと、やっぱりこの人にとって、チューニングがすごく大事であることがよく分かります。他では聴けないような響きがありますね。また、オープン・チューニングを多用していることもあるんでしょうけれど、指の動きで弦が擦れる音がほとんどしない。すごくクリーンな音を奏でるテクニックを持っているんですよ。あまり難しいことをやっているようには見せていないけど、かなり工夫された演奏だと思います。

 そして、この春には新しいアルバムが出ます。エンジニアを務めた麻琴さんが持っている古くて繊細なマイクとチューブのプリアンプを使ってレコーディングしたそうです。また、この新作ではギター1本ではなく、バッキングが付く曲も収録されているらしいですね。最近は細野さんとのセッションでドラムを叩いている伊藤大地も参加していて、彼も濱口祐自の音楽を絶賛していたそうです。また、4月11日に東京・代官山“晴れたら空に豆まいて”でのライヴも決まっています。皆さんもぜひ聴いてみてください。

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竹林パワーの夢』Aby Records ABY012

細野晴臣『Heavenly Music』

音楽の遺産を後世に伝えようとする試み?

 細野晴臣さんの最近のアルバム『HoSoNoVa』(2011年)と『Heavenly Music』(2013年)が僕は大好きです。細野さんは自らDJを務めるInter FMの番組「Daisy Holiday!」でも思いっ切り昔の音楽を掘り下げていますね。多くの人の耳には届かないような音楽をかけているのは、それを後世に伝えようという意識があるからだと思います。Inter FMではいま、ボブ・ディランがアメリカのルーツ・ミュージックを紹介する「Bob Dylan’s Theme Time Radio Hour」という番組を放送していますが、おそらく同じような感覚なのではないでしょうか。去年発表された『Heavenly Music』は、そのような昔の曲を含めたカヴァー集となっています。ジェス・アシュロックという人の古い曲や、ザ・バンド、そして「Cow Cow Boogie」や「The House of Blue Lights」といった昔のブギも採り上げています。一方で、カーペンターズで有名な「Close to You」や、シナトラ父娘で知られる「Something Stupid」なんかもやっているのがちょっと意外だったけど、これがけっこういいんですよ。ちょっと風変わりで面白かったのは最後の「Radio Activity」。クラフトワークの楽曲を昔風のサウンドでカヴァーしていますが、最近のライヴでもよく演奏されるところをみると、細野さんはこの曲にかなり思い入れがあるようです。

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ビクターエンタテインメント VICL64031

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こちらは2013年12月22日、EXシアター六本木で行われた「細野晴臣コンサート」。左から、コシミハル、細野晴臣、伊賀航、伊藤大地、高田漣。撮影:三浦憲治

 演奏についてですが、このところ細野さんのバックを務めている高田漣(ギター)、伊賀航(ベイス)、伊藤大地(ドラムズ)の3人がとってもいいですね。例えば、「My Bank Account Is Gone」のようなまったりしたテンポでも、伊藤大地のリズム感の良さが光るんですね。ライヴではドラムズに身を乗り出すようにして叩いている姿が面白く映るんですが、僕は彼のリズム感が大好きです。
 余談ですが、「My Bank Account Is Gone」……つまり銀行口座が空っぽになったという曲では、僕が原曲の歌詞の聴き取りをお手伝いしました。細野さんは英語の歌の発音が上手いほうで、昔から英語の雰囲気はすごくいい人です。でも、いま聴いてみると、この曲では発音を直したいところが2〜3箇所ありました。次回もお手伝いさせてもらえるなら、かつてのように発音指導でも協力させていただきたいですね、せっかくですから(笑)。


[ Coming Soon ]

  • 2014 3/18 tue. − 3/19 wed.(Blue Note Tokyo)

ROBERTO FONSECA

奥深いキューバ音楽の魅力に触れる絶好の機会

 今年最初のお薦めライヴは、3月18日と19日にブルーノート東京で来日公演を行うキューバ人ピアニストのロベルト・フォンセカです。僕はこの人のことを、去年出たアルバム『YO(ジョ)』で初めて知ったのですが、キューバらしくもあり、ファンキーでもあり、とにかく音がすごいんです。2曲にはジャイルズ・ピータースンが制作に関わっています。調べてみたら、ジャイルズが作ったコンピレイション『HAVANA CULTURA』(2009年)にもロベルト・フォンセカが参加しています。
 今回の来日メンバーは、『YO』のレコーディングに参加したミュージシャンも一部含まれているようですね。アルバムにはクレジットされていないけれど、ライヴには、弦楽器のコラとトーキング・ドラムの両方を演奏するシェリフ・ソウマノという人が参加するようですが、ちょっと面白そうです。同じくキューバ人ピアニストのオマール・ソーサも必ずと言っていいほどアフリカのミュージシャンを連れて来ますね。前回の来日公演も盛況だったそうで、いまからとても楽しみです。

 今日はロベルト・フォンセカの以前の作品『ザマズ』(2007年)や『アコカン』(2009年)からの曲もいくつか聴いてみましたが、やはりいいですね。キューバの音楽って、ヨーロッパとアメリカ、そしてアフリカの要素が一番いい具合に混ざっているんじゃないかな(笑)。僕がキューバ音楽をしっかりと聴き始めたのは、恥ずかしながらわりと最近のことなんです。ライ・クーダーがブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブに関わったことをきっかけに興味を持ちました。それまでは、キューバの音楽というとリズムは面白いけど、3管くらいのトランペットが発する高い破裂音が僕にはちょっとうるさくて、あまりのめり込むことができなかったんです。ところが、ブエナ・ヴィスタを聴いて、もっと柔らかい音楽もあることを知りました。そこからいろんなキューバ音楽を聴くようになって、さらに面白さが分かるようになりました。冒頭にもお話ししましたが、やっぱり生の演奏を聴くとパーカッションがすごいですよね。VOLCÁNにも参加していたオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスを初めて観たのは、2001年にキップ・ハンラハンが“ディープ・ルンバ”プロジェクトで来日した際のブルーノート東京でしたが、大所帯で繰り広げるリズムの饗宴には本当にびっくりしました。今回のロベルト・フォンセカはコラの奏者も入っていますし、きっと面白いライヴになるでしょう。期待して待っていたいと思います。

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キングレコード KICJ653




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今回は持ち寄ったCDをパソコンでリッピングし、音楽ファイルをiPadに転送。プレーヤー代わりのiPadに、英国Chord Electronicsのニュー・プロダクトであるモバイルD/AコンバーターHugo(ヒューゴ)を介してFOCALのパワード・スピーカーSolo6 Beにダイレクトに接続するというシンプルなシステムを試してみた。濱口祐自の繊細なアクースティック・ギター、まったりしたリズムが心地よい細野晴臣の近作、そしてロベルト・フォンセカのスリリングな演奏などを実に小気味良い音で聴かせてくれた。

A Taste of Musicとしては初めて一般参加の方々をお迎えし、取材現場はいつも以上に賑やかな雰囲気に。試聴後は、しばしバラカンさんと歓談する場面も。


リスニング・システム

iPad with ミュージック(Apple純正プレーヤーアプリ)、Chord Electronics Hugo(D/Aコンバーター)、FOCAL Solo6 Be(パワード・スピーカー)

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一般参加の方からコメントをいただきました!

Xさん 今回の試聴は、私が普段は聴かないような曲ばかりでしたので、新鮮さもあり、戸惑いもありました。しかし、それにしてもピーター・バラカンさんのお話はとても面白かったです。仕事とはいえ、音楽が好きでなければ、あれだけ造詣の深いお話はできないでしょう。また機会があれば、参加したいと思います。

Tさん 親しい友人の家に招かれたような雰囲気の中、自然に始まったピーターさんへの公開取材。まず驚いたのが、濱口祐自さん。そのギターの音色は生々しく、臨場感たっぷり。それもそのはず、聴いたのは“マスターから直に焼き付けたCD”とか。市販されているCDと聴き比べると、どちらが良いとかではなく、その差は歴然でした。ただし、後日、市販されているCDを聴いたところ、あの臨場感は、お茶室を連想させる「遊」のオーディオ・ルームやシステムのおかげでもあったのだと実感しました。
 僕が最も好きな“ピーターさんがお勧めするライヴ”のコーナーは予想通り、3月に来日するRoberto Fonseca! 同席されたコットンクラブの大滝さんとピーターさんのお話はとても面白く、益々ライヴが楽しみになりました。トーク中、「ピーターさんからはVan Morrison、Bobby Charles、Rod Stewart、最近ではワールド・ミュージックの素晴らしさを教えていただいたよなぁ」、「音楽の趣味が微妙に合わない点もあるけど、そこも面白いなぁ」なんて感慨を抱きました。こうして2時間30分に及ぶ公開取材は大満足のうちに終わりました。