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BOZ SCAGGS
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BOZ SCAGGS『MEMPHIS』, 『Boz Scaggs』
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VOLCÁN
構成◎山本 昇
[ Featured Artist ]
BOZ SCAGGS
アンコールで伝説の「ローン・ミー・ア・ダイム」を熱演!
今月も、僕が勝手に注目するミュージシャンについて、その音楽の素晴らしさをいろいろな角度から紐解いていきたいと思います。どうぞお付き合いください。11月もたくさんのライヴに足を運びましたが、特にいい印象を残してくれたのが渋谷公会堂で公演を行ったボズ・スキャッグズでした。
ボズは今回、とてもいいバンド・メンバーを連れてきました。ギタリストは、最近ではスティーリー・ダンのツアーにも参加しているドゥルー・ジング。ベーシストのリチャード・パタスンはデイヴィッド・サンボーンのバックを長く務めていましたが、この公演でもすごくしっかりした演奏を聴かせてくれました。キーボード奏者の一人はマイク・ローガンというシカゴのミュージシャン。オルガンやエレクトリック・ピアノ、シンセサイザーなど、楽器の使い分けが上手く、もちろん演奏も抜群に良かったです。ボズのポップな曲ではそれほどアドリブがあるわけじゃなく、「いいリズム感だな」と聴いていたら、ブルーズっぽい曲や、バラードの「ハーバー・ライツ」などスウィング感のある曲のソロがすごくよかった。ドゥルー・ジングとリチャード・パタスン以外は特に有名な人ではないけれど、達者な腕を持ったミュージシャンを連れてきたなという印象でした。
最後のアンコールでは、デビュー作『ボズ・スキャッグズ』に収録されている「ローン・ミー・ア・ダイム」を演奏しました。この曲はフェントン・ロビンスンというシカゴのブルーズマンが60年代に作ったのがオリジナルで、12分以上におよぶ長尺にして超スローなブルーズですが、途中でテンポが速くなる展開でドゥウェイン・オールマンが素晴らしいソロを延々と弾き続けます。昔のボズが好きな人の間では伝説となっている1曲で、まさかこれを日本で聴けるとは思ってもみませんでした。ドゥルー・ジングがとてもいいギターを弾いたし、ほかのメンバーもすごくいい演奏を披露してくれて、客席のみんなが感動したのがわかるような、とてもいいコンサートでした。ボズは昔から持っていた良さを失ってはいなかったということを確認できたステージでもありました。セットリストの多くは最新作『メンフィス』と大ヒット・アルバム『シルク・ディグリーズ』から。後で詳しく紹介しますが、『メンフィス』は渋いソウル~R&Bの世界で、『シルク・ディグリーズ』は洗練されたポップ・ワールド。でも、対照的であるはずの二つのアルバムが無理なく一つのステージに収まっていたのは嬉しい発見でした。
渋谷公会堂での公演は2日ともチケットが売り切れとなりましたが、会場の規模はちょうどよかったと思います。適度に広いけど、ステージと客席の距離が離れすぎることもありません。ジャズ・クラブほどではないけれど、今のボズの音楽を堪能するにはいい会場だったなと思いました。その翌々日、僕はポール・マカートニーの公演を観るため、久しぶりに東京ドームに足を運びました。端的に言って、それはコンサートではなくショウと言うべきものでした。ものすごく完成度の高いショウだったけれど、僕は感動することができませんでした。観た人の中には感激のあまり泣いちゃったというファンもたくさんいたから、ラジオでは言いづらかったんですけど(笑)。まぁ、5万人を相手にステージを展開するには、このような計算された演出も仕方がないのでしょう。最近はコットンクラブやブルーノートなど、大きすぎないライヴ会場で観る機会が増えたから余計にそう感じるのかもしれませんが、やはり音楽は親密な雰囲気の中で楽しみたいものです。ミュージシャンの表情が見て取れて、演奏のニュアンスを楽しめ、音楽の呼吸というものが感じられるのがいいコンサートの条件。それを東京ドームに求めるのが間違いなのでしょうけれど、ボズの素晴らしいステージからたった2日後のことだったので、つい比較して考えてしまったというわけです。
[ Recommended Albums ]
BOZ SCAGGS『MEMPHIS』
最新作は名門ロイヤル・スタジオでのレコーディング
最新作『メンフィス』について、先日のコンサートでボズ・スキャッグズ自身がこんなことを話していました。ブルック・ベントンの「雨のジョージア」、ボブ・ディランも初期に歌ったトラディショナル・ソング「コリーナ、コリーナ」の2曲は、彼が住んでいるサンフランシスコにとってとても大切な人が亡くなり、その追悼コンサートで演奏してみたところ、思いのほか上手くいったこともあって、新作のレコーディングでも歌うことにしたそうです。そのサンフランシスコにとって大切な人というのは、「ハードリー・ストリクトリー・ブルーグラス(厳密にいうと決してブルーグラスとは言えない)・フェスティヴァル」という音楽祭のスポンサーだった地元の投資家ウォレン・ヘルマン氏のことです。もう10年以上続いているこのフェスティヴァルには、ボズのほかにもたくさんのミュージシャンが集まるので、いつか僕も観に行きたいと思っていました。とにかくものすごい大富豪で、フェスティヴァルは入場無料、出演者にもずいぶん気前のいいギャラを与えていたそうです。
『メンフィス』にはほかにも注目したいカヴァー曲があります。スティーリー・ダンの2作目『カウントダウン・トゥ・エクスタシー』の最後に収められている「パール・オヴ・ザ・クォーター」は、いい曲なんだけど誰かがカヴァーするとは思っていなかったので、ちょっと驚きました。ウィリー・デヴィルの「ミックスト・アップ、シュック・アップ・ガール」も、渋いけど大好きな曲です。タイトルのとおり、メンフィスのロイヤル・スタジオで録音されたこのアルバム。ソウルやブルーズを中心とした選曲は、AORだった頃のイメージからは結びつかないかもしれませんが、昔のボズを知っていれば「ああ、やっぱり」と、とてもしっくりくるんですよ。主なバック・ミュージシャンはスティーヴ・ジョーダン(ドラムズ)とレイ・パーカーJr.(ギター)、ウィリー・ウィークス(ベイス)。これだけでも抜群の布陣ですが、さらにスプーナー・オールドハム(キーボード)らの腕利きが加わっている点も見逃せません。そして、ボズのヴォーカルはとても69歳とは思えない。決して声量がある感じの歌い方ではないけれど、なんとも魅力的なんですね。
BOZ SCAGGS『Boz Scaggs』
ブルージィなボズのルーツがここに
今回はボズの最新作に加えてもう一枚、彼のデビュー作『ボズ・スキャッグズ』を推薦したいと思います。このアルバムは1969年にマスル・ショールズ・サウンド・スタジオで録音されました。ソウル系の人たちにはよく知られたこのスタジオですが、当時はまだ一般のロック・ファンには認知されていませんでした。昔のレコード・ジャケットと言えば、ライナー・ノーツどころかクレジットすらちゃんと表記されていないことが多かったのですが、このアルバムには参加ミュージシャンが写真付きで紹介されています。僕はこのレコードを70年代に入ってから、当時働いていたロンドンのレコード店で見つけて初めて聴いたのですが、その後、オールマン・ブラザーズ・バンドで活動するも、間もなく事故で亡くなったドゥウェイン・オールマンの名があったことに驚きました。エリック・クラプトンなど一部のミュージシャンから注目されてはいたものの、当時はほとんど無名だったドゥウェインを起用したボズには素晴らしい先見の明があったということでしょう。
その昔、ロンドンで初めて聴いたときも感じましたが、この「ローン・ミー・ア・ダイム」の演奏は本当にすごい。日本ではもっぱらAORというイメージが強いボズですが、決してそれだけではありません。バックボーンにある、このブルージィな感覚をぜひ聴いていただきたいと思います。
[ Coming Soon ]
- 2014 1/8 wed. ~ 1/9 thu.(Blue Note Tokyo)
- 2014 1/10 fri. & 1/11 sat.(COTTON CLUB)
VOLCÁN
featuring GONZALO RUBALCABA, GIOVANNI HIDALGO, HORACIO “EL NEGRO” HERNANDEZ & ARMANDO GOLA
ゴンサロ・ルバルカバ率いる新ユニットに高まる期待
さて、今回僕がお薦めするライヴは、年明け早々にブルーノート東京とコットンクラブでの来日公演が決定しているVOLCÁNです。この新しいグループは、ジャズ・ピアニストのゴンサロ・ルバルカバを筆頭に、ジョヴァンニ・イダルゴ(コンガ)、オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデス(ドラムズ)、ホセ・アルマンド・ゴラ(ベイス)の4人。ジョヴァンニだけがプエルトリコ出身で、彼以外はキューバの出身です。今日は彼らの新作アルバム『VOLCÁN』を聴きながら、その魅力を掘り下げてみましょう。
冒頭のタイトル・チューン「Volcan」からして、セローニアス・マンクの「エヴィデンス」を思わせるような、独特のシンコペーションがかっこいいですね。ビ・バップ的なジャズなんだけどすごくファンキーで、キューバ音楽ならではのパーカッションも入って、いろんな音楽が凝縮されてうねりを上げているよう。そこがグループ名“火山”の由来でしょうか。このアルバムでゴンサロは、アクースティック・ピアノはもちろん、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーも弾いていて、これがまたいいんですね。そして2曲目は「Volcan Durmiente」。スペイン語の“Durmiente”は“sleeping”だから“休火山”という意味でしょう。どの曲も、演奏が本当にいいですね。特にコンガが入ることでリズムが単調ではなくなって、押したり引いたり、微妙な緊張感が生まれています。全体的に品がよく、とても都会的な音楽とも言えそうです。
ゴンサロ・ルバルカバはデビューしたときから、すごい力量を持ったピアニストであることはリスナーにも十分に伝わっていました。しかも、最初は力ずくというイメージが強かったんだけど、次第にそれだけではないこともわかってきました。ジャズ本来の持ち味とファンキーさ、さらに非常にリリカルな部分を持ち合わせているのがこの人の魅力です。そして、注目したいのがこのグループの編成で、メンバーにドラマーが参加していることです。キューバの音楽には、コンガやティンバレスなどのパーカッションは欠かせませんが、通常はドラム・セットが使われることはありません。オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスはすごく上手にキューバ音楽のノリに合ったドラムを叩きます。ジャズとラテン音楽の要素をユニークな感覚で組み合わせることを得意技とするプロデューサー、キップ・ハンラハンの作品などに参加していて日本でもお馴染みの素晴らしいドラマーです。そしてジョヴァンニ・イダルゴはラテン音楽界では超有名な凄腕のコンガ奏者です。そんな彼らがグループを組むわけですから、期待は十分。今日、アルバムを聴いてみたらもう、「おー!」って感じで(笑)。唯一知らなかったベーシストもよかったし、期待が間違いでないことがわかりました。1月のライヴでは、おそらくこれ以上のものが体験できるんじゃないでしょうか。彼らがVOLCÁNとしていつまで活動を続けるのかはわかりませんが、やっているうちに僕も観ておきたいと思っています。