A Taste of Music Event Report 022015 09

Introduction

komidashi 音楽ファンが出会うハイエンド・オーディオの新世界

 音楽の伝道師、ピーター・バラカンさんが、今お勧めのアーティストやアルバム、そしてライヴをこっそり教えるWebマガジン「A Taste of Music」。そのイヴェント版「ピーター・バラカンが語る“いい音楽を楽しむ方法”」の第二弾が9月3日、前回に続いて東京・代官山の風土カフェ&バー「山羊に、聞く?」で開催された。生憎の曇り空だったが、会場には男女を問わず、音楽ファンが続々と集まってくる。
 この催しのコンセプトは、“バラカンさんいち押しの音楽を、優れた再生装置による飛び切りのいい音で聴こう”という「A Taste of Music」の趣旨に賛同する輸入商社やオーディオ・メーカー、オーディオ・アクセサリー・メーカーなどが持ち寄った、自慢の機器を一般の音楽ファンに素直な感覚で聴いてもらうことにある。バラカンさんの楽しいトークと共に、“高級オーディオ装置の鳴りっぷり”をカジュアルに楽しめるという、ありそうでなかった珍しいイヴェントなのだ。開演を待ち、「山羊に、聞く?」お得意のビュッフェに舌鼓を打ち、一杯やりながら楽しそうに過ごす来場者のほとんどはオーディオ・マニアではない、ただ音楽が好きという人々。音楽の力そのものを信じているとおぼしき人たちに、現代のハイエンド・オーディオがどう響くのか。そんな興味深い接点が見られるのも、当イヴェントの面白さだ。なお、29歳以下なら、ドリンク代のみでの入場も可としているのは、オーディオの魅力を幅広い世代に知ってほしいからだろう。

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会場に到着するや、すかさず音をチェックするバラカンさん

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 今回のオーディオ・システムはTAD、LINN、CHORD、そしてACOUSTIC REVIVEといったブランドから選ばれたもので、いずれも魅力的なハイエンド・モデル。アナログ・レコードやCDはもちろん、ハイレゾ・ファイルの再生も可能となっている(システムの詳細は別表をご参照ください)。

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来場者に少しでもいい音を届けるべく、入念なセッティングとチューニング作業は開場時間の直前まで行われた

 当日は昼過ぎから、各ブランドの担当者が機材を搬入。今回はサポートに回った他の協賛メーカーのスタッフらの手も借りてシステムを組み上げた後は、じっくりと時間をかけてチューニングを行う。とりわけ、スピーカーの位置や角度はとても慎重な調整が施されていた。

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最終調整を行うTADの平野さん。スピーカーはやや内振りになっている

 システムが設置されるステージの手前中央に鎮座するイギリスはCHORDのパワー・アンプの存在感もさることながら、両端にそびえ立つスピーカーには自然に目がいく。今回選ばれたのは、レコーディング・スタジオやコンサート・ホールなどプロ音響の分野で実績のあるTADがコンシューマー向けに開発したCompact Evolution One。前回のELACもオーディオの面白さを存分に伝えてくれたが、TADのスタジオ・モニターを思わせる自然な響きも素晴らしい。来場者たちがどう聴くか、とても楽しみだ。

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この日の試聴システムが完成

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充実したフードが楽しめるのも「山羊に、聞く?」ならでは

 また今回は、スマートフォンやポータブル・オーディオ・プレーヤーに入っているMP3などの楽曲をAirPlayで接続してみるという新たな趣向も。圧縮音源がハイエンド・オーディオにつながるとどうなるのか。リハーサルを兼ねて、筆者のスマホを使いAACなどで保存されたものをいくつか試してみたところ、特に音質的な問題を感じることはなく、それよりも、Wi-Hi環境にアクセスするだけの手軽さで、手持ちのケータイがこうしたシステムに簡単に入り込めることの面白さのほうが先に立って印象深い。高音質であるのは当然として、最新のハイエンド・オーディオが時代に即した自由度の高さも兼ね備えている点は、一般の人たちにももっと知られていいことだろう。

komidashi 音楽ファンが出会うハイエンド・オーディオの新世界

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第2回も多くの音楽ファンが集まった

 19時30分が過ぎ、客席が埋まってきた頃にいよいよイヴェントがスタート。前半は、バラカンさんが自ら監修する音楽祭“「Peter Barakan's LIVE MAGIC!」を楽しく予習しよう”をテーマに、ダイメ・アロセナやI'm With Her(セーラ・ウォッキンズ、セーラ・ジャローズ、イーファ・オードノヴァン)ら出演アーティストのレコードやCDを試聴。中でも、「A Taste of Music」が早くから注目し紹介した濱口祐自は、レコードとハイレゾに加え、来場者が持っていたiPodに入っていたCDクオリティのファイルをAirPlay接続して3種類の音源の聴き比べも行った。無線接続のiPodには「音に厚みがない」という客席からの声も聞かれたが、リスナーの反応は前回と同様、それぞれのフォーマットの持ち味というものを、おぼろげながらもつかんだようだった。

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バラカンさんも客席で一緒に試聴

 また、試聴中、オーディエンスから「スピーカーはなぜ、少し内側に向けてあるの?」という質問があった。これには担当メーカーであるTADの平野さんが、「真正面に向けた状態だと、前列中央のお客さんにとって音の定位が甘くなってしまいます。今日はできるだけ多くの方にいい音像で聴いていただきたくて、こういうセッティングにしました」と回答してくれた。
 「LIVE MAGIC!」関連以外では、「A Taste of Music Vol10」で取り上げたアルバムや、バラカンさんが今年、ロンドンへの帰省で40年ぶりに持ち帰ったというフランク・ザッパ『Hot Rats』から「Peaches En Regalia」、たまたま持参したレコードに紛れていたプリンスのシングル「1999」のなぜかB面が好きだということで「How Come U Don't Call Me Anymore」、昨年の「LIVE MAGIC!」に続いてオファーしたものの今年は残念ながらスケジュールの都合で出演がかなわなかったというジョン・クリアリーの新作『Go Go Juice』から「Pump It Up」なども選曲されると会場はすでにいい感じの盛り上がりに。気が付けば、客席後方はダンス・ホール状態となっている。オーディオ・フェアなどで見られる、いかにも音質評価をしています的な聴き方ではないが、リラックスしたリスナーたちの嬉しそうな表情こそ、そこにあったのがいい音楽といい再生装置だったことを物語っていると思う。

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会場にはULTRASONEのヘッドフォンやイヤーフォンをRMEの最新モデルBabyface Pro(オーディオ・インターフェース)でハイレゾ音源を試聴できるコーナーも

 後半は、「皆さんが持ち込んだ音源も取り上げます」というバラカンさんによる事前の呼びかけに応じて持参してくれた観客たちの持ち込み音源を中心にかけまくる大リクエスト大会に。中には、リスナーとして参加してくれたブラジル音楽に精通する音楽ライター、ケペル木村さんが貴重なレコードを紹介してくれるという一幕も見られた。

komidashi レコード・プレーヤーが欲しくなりました

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「どの音源フォーマットがいい音かは本当に好みの問題だけど、アナログをかけると嬉しそうな顔をする人が多いような気がするのは、何かが伝わっているからだと思います」

 そんなこんなで第2回目のイヴェントも無事終了。終演後、あるご夫婦に今回の感想を求めてみた。帰り際、ステージの後ろに回ってまで機材をしげしげとのぞき込んでいたのは奥さんのほうだ。「学生時代はオーディオ雑誌が推薦するレコードやCDを、当時住んでいた大阪の日本橋にあるオーディオ店に持ち込んで、展示してあるスピーカーを1番から16番まで全部聴いていたヘンな女子学生でした(笑)。今でも音の善し悪しを聴き比べるのはけっこう好きなんですよ」。各音源フォーマットの違いについては、「やっぱり私にはアナログの音がいちばんしっくりくる感じはありました。歌ものは、息遣いも含めて肉声に最も近いと思うんです」という判定。さらに、「今日もこんなにすごい音響装置で聴かせていただいて、もう一度レコード・プレーヤーが欲しくなりました」と感想を語ってくれた。

そして、ご主人さんのほうは、「今日は自分がリクエストしたサニー・ランドレスの〈Key To The Highway〉をかけてもらえて嬉しかったです。オーディオは、老後の楽しみにもいいかもしれませんね。ピーターさんのイヴェントはよく聴きにきていますが、私はこのA Taste of Musicがいちばん好きです。食事も美味しく、いい音楽をゆったりと楽しく聴けるのがいいですね。ぜひまた参加したいです」とコメントしてくれた。

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感想を聞かせてくれたご夫婦。お二人とも前回に続いての参加だという

 会場ではほかにも、次回の開催を望む声が多く聞かれ、イヴェント関係者にとっては大きな励みとなった。というわけで早速だが、次回第三弾は2016年2月に開催予定。オーディオ・ブランドもシャッフルされる予定なので、さらに新しい音響に出会うことができるはず。詳細は、「A Taste of Music」での続報を待っていてほしい。

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客席後方で盛り上がる皆さん

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試聴したレコードやCDの一部


◎試聴曲リスト

ピーター・バラカン選曲

Dayme Arocena『Nueva Era』(LP)から「Madres」
Sonny Landreth『Bound By The Blues』(LP)から「Key To The Highway」
Jon Cleary『Go Go Juice』(CD)から「Pump It Up」
Frank Zappa『Hot Rats』(LP)から「Peaches En Regalia」
濱口祐自『Going Home』(File:Hi-Res〈24bit/96kHz〉wav/CD Quality〈16bit/44.1kHz〉alac/LP)から「Hangover Shuffle」
I'm With Her「Crossing Muddy Waters」(single)のB面「Be My Husband」
Prince「1999」(single)のB面「How Come U Don't Call Me Anymore」
The Doors『Strange Days』(LP)から「Moonlight Drive」〈Mono〉

持ち込みリクエスト

Geoff Muldaur『Is Having A Wonderful Time』(LP)から「Gee Baby Ain't I Good To You」
Robert Palmer『Sneaking Sally Through The Alley』(LP)から「Sailing Shoes」「Hey Julia」「Sneakin' Sally Through The Alley」
Robert Glasper『Covered』(CD)から「Reckoner」
Gerardo Frisina『Hi Note』(CD)から「Inviolatin」
Tower Of Power『Hipper Than Hip』(CD)から「Just When We Start Makin' It」
Nathaniel Rateliff & The Night Sweats『〈s/t〉』(CD)から「S.O.B.」
Djavan『〈s/t〉』(LP)から「Cara de Indio」
Nick Lowe「American Squirm」(single)のB面「What's So Funny 'Bout(Peace, Love, And Understanding)」
Boom Pam And Trifonas「Ematha Pos Eisei Magkas」(single)のB面「Neden Saclarin Beyazlanmis Arkadas」
Rodrigo Moreira『Infinito Azul』(CD)から「Beijo Lunar」
Jim Palmer『Remember Makes You』(EP)から「Miya Miya」
The Beatles『Rubber Soul』(LP)から「Nowhere Man」
The Beatles『Long Tall Sally』(EP)から「Long Tall Sally」〈Mono〉
10cc『The Original Soundtrack』(LP)から「Une Nuit A Paris」
ほか

◎試聴システムの構成

パワー・アンプ:CHORD SPM1200MkII
プリ・アンプ:CHORD CPA5000
レコード・プレーヤー:LINN KLIMAX LP12
カートリッジ:LINN KANDID
SACD/CDプレーヤー:TAD D1000
ネットワーク・プレーヤー:LINN KLIMAX DS
スピーカー:TAD Compact Evolution One
スピーカー・スタンド:TAD ST2
電源ケーブル/ライン・ケーブル/スピーカー・ケーブル/LANケーブルほか:ACOUSTIC REVIVE
オーディオ・ラック:LINN RAKK4

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パワー・アンプCHORD SPM1200MkII

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プリ・アンプCHORD CPA5000


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レコード・プレーヤーLINN KLIMAX LP12

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カートリッジLINN KANDID

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SACD/CDプレーヤーTAD D1000


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ネットワーク・プレーヤーLINN KLIMAX DS

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スピーカーTAD Compact Evolution One

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各種ケーブルACOUSTIC REVIVE


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