Contents
◎“Live Magic! 2023” Special
Jon Cleary & the Absolute Monster Gentlemen, Minyo Crusaders, Chitose Hajime, Oreka TX, Miuni, Yasuaki Shimizu, Yuji Hamaguchi, Dos Orientales, Maki Nakano, Romantic Babalú, Brainstory, Zale Seck et Japon Daagou
◎PB’s Sound Impression
NASPEC Listening Room……PRIMARE I35, PRIMARE CD35+SM35, Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand Reference, IsoTek V5 SIGMAS
構成◎山本 昇
Introduction
充実した音楽映画が目白押し!
いろいろあった2023年でしたが、個人的には“Peter Barakan’s Music Film Festival”(PBMFF)や、あとで詳しくお話しする“Live Magic!”も無事に開催することができ、それなりに手応えを感じた1年でした。3回目となった音楽映画祭は3週間にわたり、31本の映画を上映。お客さんの反応も良く、僕自身もやり甲斐が感じられ、充実した催しとなりました。
いつもお話ししているように、近年は音楽映画にいい作品が多く、僕自身も楽しみに観ていますが、こうした映画の多くは都内でも単館で1~2週間ほどで上映が終わってしまったり、気になっていたけれど見逃してしまう人も多いと聞きます。それらを集めて、PBMFFで紹介できるのは非常に意義深いものがあると感じています。どれも見応えのある作品でしたが、例えばドキュメンタリー『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』も印象に残っています。「ビー・ジーズの映画」と聞けば、多くの人の反応は「どうせディスコでしょ?」といった感じでしょう。ところがこの映画はすごく面白い(笑)。3兄弟の人間模様や楽曲にまつわる裏話などが満載だし、レコーディングに関する興味深いエピソードも出てくるので、そういうことに興味がある人が観ればなお面白いと思います。
PBMFFではこのほか、『ルーツを掘る アーフーリー・レコード物語』という超シブいドキュメンタリー映画などの個性的な作品を世界中から集めて上映しました。作品によってはこのあと全国で上映されるものもあるので、機会があったらぜひご覧ください。そして、PBMFFは2024年もやりますので、こちらもどうかお楽しみに。
音楽ドキュメンタリーと言えば、1967年に開催されたモンタレー国際ポップ・フェスティヴァルの模様を記録した『モンタレー・ポップ』が2024年3月から上映されます。このフェスには当時頭角を現してきたジェファスン・エアプレインやジャニス・ジョプリン、カントリー・ジョー&フィッシュのほか、ジミ・ヘンドリクスやサイモンとガーファンクル、オーティス・レディング、ザ・フー、ママズ&パパズ、そしてラヴィ・シャンカルなどが出演しています。1968年に上映された16mmのオリジナル版は低予算のインディーズ映画で、その後DVDは出たものの、ちゃんと観たことがある人は少ないのではないかと思います。これから公開されるのはその4Kレストア版で、音も8chのテープから5.1chサラウンドにリマスターされ、かなり良くなっています。2年後のウッドストック・フェスティヴァルにも繋がった重要な音楽祭を捉えた画期的なドキュメンタリー。こちらもお見逃しなく。もちろん2024年のPBMFFでも上映する予定です。
“Live Magic! 2023” Special
4年ぶりに通常開催となった
感動の音楽祭を振り返る
僕が監修している“Live Magic!”は早くも10回目を迎えました。今日は、2023年10月21日と22日の2日間にわたって開催されたこの音楽祭を振り返り、出演してくれたミュージシャンたちの音楽を、ここナスペック岐阜本社の試聴室のオーディオ・システムで聴きながら、その魅力についてあらためてお話ししたいと思います。
4年ぶりにコロナによる制限のない、フルサイズでの開催となった2023年のLive Magic!には、いつものように多彩な顔ぶれが揃いました。一般の人にとってはそれほど有名ではないけれど、音楽的には最高に素晴らしい人たちです。その様子は、オフィシャル・フォトグラファーの上原基章さん、西岡浩記さん、三浦麻旅子さんの素敵な写真からも伝わってくると思います。
Jon Cleary & the Absolute Monster Gentlemen
ニュー・オーリンズのレジェンドたちへのトリビュート・ライヴ
今年のヘッドライナーは、初日が民謡クルセイダーズで、2日目がジョン・クリアリー&ジ・アブソルート・モンスター・ジェントルマン。まずは、初日にも出演して会場を沸かせてくれたジョン・クリアリーからお話ししましょう。
2018年の“Live Magic!”にも出演してくれたジョン・クリアリーは、イギリス生まれのミュージシャンなのですが、もう40年も前からニュー・オーリンズで暮らしています。あの土地独特のファンキーな音楽を得意としています。元々はギタリストでしたが、ニュー・オーリンズではピアニストに転向しました。ニュー・オーリンズには伝説のピアニストがたくさんいますが、彼らが次々と鬼籍に入っていくいま、一番の継承者と言っていいのがジョン・クリアリーでしょう。そんな彼は、アメリカでも決して大スターというわけではありません。でも、ライヴはアメリカ中でしょっちゅうやっているし、数ヶ月に一度はヨーロッパも回っています。それほど大きな会場ではありませんが、コンスタントにライヴ活動を行い、アルバムも出し続けている。ニュー・オーリンズの音楽が好きな人にはよく知られた存在です。2019年には、僕が最も好きなミュージシャンの一人であるドクター・ジョン、そしてニュー・オーリンズのファンク・バンドとして名高いミーターズのキーボード奏者のアート・ネヴィルが亡くなりました。僕は彼らに対する追悼の気持ちを込めて、2020年のLive Magic!でジョン・クリアリーに来てほしいと思ったのですが、コロナの影響でそれは実現しませんでした。
結局、5年ぶりの来日となったジョン・クリアリーには今回、初日の土曜は普段どおり彼の音楽をやってもらうとして、2日目の日曜にはニュー・オーリンズのミュージシャンへのトリビュートの要素を少しでも入れてもらえないかとお願いしてみたら、少しどころか(笑)、もう全編にわたってニュー・オーリンズのいろんな伝説の人たちへの追悼の気持ちを込めてやってくれました。いずれもバンド編成でしたが、これがまた素晴らしかった。そして、10月25日に富山で行われたLive Magic!のエクストラ公演ではソロでやってもらいましたが、こちらもすごくよかったんです。2023年にはまた、ありがたいことにソニーミュージックから日本だけのコンピレイション盤『New Kinda Groove The Jon Cleary Collection』も8月に発売。しつこく招聘し続けた甲斐がありました(笑)。
今回のメンバーは、昔から一緒にやっているベイシストのコーネル・ウィリアムズ、若手ドラマーのA・J・ホールのトリオに、ペドロ・セグンドというパーカッショニストがゲストとして加わった4人編成でした。ジョンはピアノがとにかく上手い。特にあのニュー・オーリンズ・スタイルのピアノは抜群です。ノリがよくてファンキーで、お客さんを盛り上げるのも非常に上手い。そして、先ほどもお話ししたように、元々ギタリストの彼は最近のライヴでも2~3曲はギターを演奏しますが、それも本当にセンスがいいんです。彼は白人ながら、ブラック・ミュージックにも精通していて、黒人のギタリストが弾きそうなフレーズが出てくるんですが、これがまたのけぞるくらい素晴らしい(笑)。ヴォーカリストとしては、声もよくて、ブルージーなときのボズ・スキャッグズにちょっと似ていると感じるところもあります。ただ、見た感じはあんなに洗練されていません。着てるシャツも、もうちょっとアイロンでもかければいいのにという感じで(笑)。無精髭も、平気で10日くらい伸ばしっぱなしです。それでも、意外に女性ファンも多いんです。僕のラジオを聴いてファンになったという人もけっこういますけど、あのライヴを観れば、みんなCDを買って帰ってくれるんです。その名前を知らなくても、彼の音楽を見聞きすれば、「これはいいね!」と言ってくれる。だから、僕ももっとしつこく呼び続けなければと、つくづく思っています。ちなみに、2018年のLive Magic!のステージを捉えたDVD『live in Tokyo, October 21st, 2018』(629Records)は、コーネル・ウィリアムズ、A・J・ホールとのトリオに、ナイジェル・ホールを加えたライヴを映像で楽しめます。こちらもぜひご覧ください。
民謡クルセイダーズ
Minyo Crusaders
初日のヘッドライナーを務めた大所帯バンドに会場は大盛り上がり
初日のヘッドライナーは今をときめく民謡クルセイダーズでした。ドキュメンタリー映画『Bring Minyo Back!』が公開され、またニュー・アルバム『日本民謡珍道中~Tour of Japan』が2023年11月にユニバーサルから発売されて注目度が上がっているこのバンドも、“Live Magic!”にはご縁があります。初出場はファースト・アルバム『Echoes of Japan』を出した2017年で、彼らにとってもおそらくこの規模の会場で最初のライヴだったかと思います。そもそも、僕が彼らのことを初めて知った頃はまだアルバムは出ていませんでした。久保田麻琴さんに勧められて聴いた彼らの音は、自主制作盤のデモ音源のようなものだったと思うけれど、そのときはとにかくびっくりしましたね。民謡をこんなテイストで聴いたことはなかったので、「面白いことを考える人がいるなぁ」と俄然興味を惹かれたんです。ライヴを観ればノリがよくて、みんな楽しそうにやっている。一気に心を持って行かれちゃった感じでした。
当初から10人という大所帯だった民謡クルセイダーズは現在、ゲスト・メンバーを含めて12人編成となっています。リード・ヴォーカルはフレディ塚本、リーダーはギタリストの田中克海です。どの曲も日本の民謡をサルサなどラテン音楽の編曲でやっていますが、このコンセプトはどこからきたのでしょうか。デビュー以前は、聞くところによると、歌手の弘田三枝子が民謡をジャズの編曲で歌ったアルバムなどがきっかけではあったようですが、最初から民謡をやろうと思っていたわけではなかったようです。田中さんを中心に、福生を拠点にしていた彼らは気の赴くまま遊び半分でパーティ・バンドみたいな活動していたんですが、そうこうしているうちに、似た者同士が集まって、ソウル、ジャンプ・ブルーズ、ちょっとラテンっぽいこととか、いろんな音楽に発展していったらしいんですね。フレディは、愛媛の出身で、東京に出てきた当初はジャズ・シンガーを目指していたと言います。ジャズ・ヴォーカルの先生の下に通ったりもしたそうですが、自分には向いていないと感じるようになったある日、たまたま入った蕎麦屋かどこかで民謡の番組をテレビで観るんですね。しかも、番組で優勝した人は自分と同じ愛媛の出身で、歌っていたのは地元の民謡だった。このときに、「民謡も面白い」と閃いて、民謡のお師匠さんに通うことにしたそうです。ただ、大会を中心とした民謡の世界に合わないものを感じて悩んでいたらしいのですが、そんなときに田中さんと出会い、このバンドで民謡をやることになったのだそうです。こうしてできたのが、2017年にP-Vineから発売された『Echoes of Japan』だったわけです。Live Magic!に出てくれたのは今回で4度目。コロナ禍の2021年はビデオでの出演でしたが、ここでは元ちとせとの共演もありました。
ニュー・アルバム『日本民謡珍道中~Tour of Japan』の制作は、コロナの影響もあって以前のようにみんなで福生に集まってジャム・セッションをしながら作っていくというやり方は難しかったらしいんですね。そこで、サックス奏者の大沢広一郎がほとんどの曲で編曲を担当して、譜面も作ったそうです。デビュー作に比べると、プロっぽくなったというか、そんな感じもあるアルバムです。1作目の素人っぽさも捨てがたいところではありますが……。
僕はこのバンドを聴いて、もしかしたら日本人よりも海外の人たちのほうが先に反応するんじゃないかと感じました。麻琴さんがライ・クーダーに民クルをメールで紹介すると、すぐに「一緒にやりたい」と返してきたそうですが、彼がそうした反応を示したのもよく分かるんです。そして、いまや日本でも人気の彼らを、今回のLive Magic!で土曜日のヘッドライナーに持ってきたのは絶対に盛り上がると確信していたからですが、実際、そのとおりになりました。
元ちとせ
Chitose Hajime
心に染みる島唄を披露した奄美の歌姫
配信で行われた2020年の“Live Magic!”にも出てくれた元ちとせには、島唄ばかりを歌ってもらいました。というのも、2018年に出たアルバム『元(はじめ)唄 ~元ちとせ 奄美シマ唄集 - CD』がすごくよくて、ぜひともLive Magic!でこの世界を展開してほしいと思ったのです。そもそもLive Magic!は、ほかのフェスではやらないようなことをやってもらうというのも特徴の一つ。ここでしか聴けない、観られない特別な何かを、お客さんも期待してくれていますからね。『元唄(はじめうた)~元ちとせ 奄美シマ唄集~』には民謡クルセイダーズが参加しているのですが、今回はそれをステージで再現。民クルのステージにも元ちとせが登場し、「豊年節」などを一緒にやってもらったのです。これにはお客さんたちも喜んでくれたのではないでしょうか。
Oreka TX
圧倒的なリズムで聴衆を釘付けに!
個性的なミュージシャンが集った今回のLive Magic!の中でも、ちょっと珍しいのがOreka TXでしょう。スペインのバスク地方に伝わるチャラパルタという風変わりな打楽器を二人一組で演奏します。今回はその二人、アルカイツとミケルに、彼らの友達でサクソフォンとアルボカというやはりバスクの楽器を演奏するミシェルを加えた3人でやってもらいました。アルボカは、牛の角を用いたダブル・リード楽器で、すごく面白い音がします。彼らは2日目の仲野麻紀の舞台にも途中から参加してくれました。
チャラパルタは木の板を並べたもので、チューニングはその木を削って行うんですね。そして彼らは今回、石のチャラパルタも持ってきてくれました。海の中にある石を掘り出して、それを削って音程を整え、半音ずつ、2オクターヴの音域があるそうです。一人が2本ずつバチを持ち、絶妙なタイミングで、非常に細かいフレーズを奏でます。ライヴを観ていると、よくこんなリズムが叩けるものだなと感心してしまいました。本当にすごく面白くて、観た人はみんな心を動かれさていたようです。ちなみに、Oreka TXは2019年に『Silex』というアルバムを出していますので、興味があればぜひ聴いてみてください。
Miuni
與那城美和の新ユニットが早くも登場
與那城美和の新しいユニット、Miuni(ミウニ)も素晴らしい歌と演奏でした。宮古島の女性4人によるグループです。そのファースト・ミニアルバム『Miuni』には、1曲目の「舟漕ぎのアーグ -豊年の歌-」のようなしっとりした感じの歌もあれば、「古見ぬ主」のようにリズムのはっきりした曲も収録されています。沖縄の周辺でも宮古はまた独自の音楽を持っています。與那城美和と川満七重が唄と三線を、池村綾野はピアノとキーボード、池村真理野はサックスを担当します。池村真理野と池村綾野の姉妹はファンク・バンド、Black Waxのメンバーでもあります。アルバムのプロデューサーは、スタジオ・ミュージシャンでパーカッショニストの江川ゲンタです。
彼女たちの音楽に僕はかなり深くハマりました。與那城美和が得意とする宮古の古い民謡は、本来は無伴奏で歌われるもので、1曲10分以上ありますが、生で聴くと取り憑かれたようになってしまうんです。2017年のLive Magic!ではMyahk Song Bookという、コントラバス奏者・松永誠剛とのユニットで出演してくれた與那城美和。彼女の歌を聴くと自然と涙が出るという人も多い。そんな素晴らしい魅力を持った歌なんです。地元では民謡酒場で三線を弾きながら歌っていて、人気があるそうです。
清水靖晃
Yasuaki Shimizu
“バッハの無伴奏チェロ組曲”を含む
渾身の演奏
ガーデン・ルームのステージに一人で現れた清水靖晃。彼が1996年に発表したアルバム『Cello Suites 1・2・3』(清水靖晃&サキソフォネッツ)は、バッハの無伴奏チェロ組曲をテナー・サックスで演奏したものでした。発売当時、えらくハマった大好きなアルバムです。久しぶりに、Live Magic!の舞台でやってくれないかとお願いしたら、快諾してくれました。『Cello Suites 1・2・3』はそもそも、音がメチャメチャいいアルバムでした。日本の採石場や地下駐車場、イタリアの貴族の大邸宅など様々な自然の残響を活かした録音も面白かったし、テナー・サックスのいろんな音色を吹き分けているのも印象的でした。最近は実験的な音楽にも取り組んでいて、Live Magic!でも少し披露してくれましたが、バッハの無伴奏チェロ組曲を生で聴けて、僕自身もすごく感激しました。
濱口祐自
Yuji Hamaguchi
唯一の皆勤賞ミュージシャンも健在
2014年の第1回目のLive Magic!から毎回参加してくれている、唯一のミュージシャンが濱口祐自です。本当に純朴で根っからのいい人で、プレイヤーとしてはいろんなスタイルを持ったギタリストで、とにかく音楽が素晴らしい。以前は全く知られていない存在でしたが、久保田麻琴さんのサポートで大手のレコード会社からも2枚のアルバムを出しました。でも、より自由にやりたいということで、いまはまた自主制作のやり方に戻っているんですね。2021年のアルバム『Homestead Blues: I Was Born in Tanabe』に収録されている、ミシシピ・ジョン・ハートと自分のオリジナル曲のメドリー「Louis Collins / Original Two-Step / Buck Dance」は、珍しくギターを重ねていて、フィンガー・ピキングとボトルネックの両方を弾いています。実はこの曲、コロナの影響により配信で行われた2021年のLive Magic!で、何かエンディング・テーマがほしいなと思って、濱口さんに作ってもらったものです。このアルバムにはまた、サティの「Gnossienne No.1」のライヴ音源も収録されています。
Dos Orientales
“Live Magic! Extra”にも出演した
異色のデュオ
Dos Orientalesは、ウルグアイ人のキーボード奏者ウーゴ・ファトルーソとパーカッショニストのヤヒロトモヒロによるデュオ。80歳になったウーゴは、南米では伝説のミュージシャンです。60年代に南米のGSみたいなバンドでデビューしたそうですが、その後はわりとジャズ寄りだったり、アフリカの太鼓を交えた音楽もやったり、様々なスタイルで活動しています。ヤヒロトモヒロとは15年くらい前から毎年、秋に日本中を回るツアーを行っています。ジョン・クリアリーと同じように、富山のLive Magic! Extraにも出演してもらいましたが、抜群に良かったです。ラテンだったり、ジャズだったり、ジャンルを特定するのは難しい音楽ですが、演奏は実にいいですね。ステージではウーゴのパートナー、アルバナ・バロカスも参加しました。
仲野麻紀
Maki Nakano
単独でのステージも持ち味を発揮
仲野麻紀は、アルト・サックスとメタル・クラリネットというちょっと珍しい楽器を演奏します。パリで暮らしていた彼女は、最近はブルターニュの田舎に住んでいて、以前はフランス人のウード奏者ヤン・ピタールとKy(キイ)というユニットを組んでいて、2018年のLive Magic!では二人で出演してくれました。ヤン・ピタールはいま、心臓の病気を抱えていて、長旅が難しいということで、今回は仲野麻紀が一人で来てくれました。彼女が演奏する曲は本当に様々で、サティのような曲からブルターニュの民謡、中東風の曲、そして自身のオリジナルなどをライヴでは取り上げています。舞台ではループ・ペダルを使って音を重ねたり、なかなか面白いことをやっています。一人だから地味だけど、じっくり聴くとその良さが分かります。後半はOreka TXとの共演でしたが、これもすごく面白かったです。
Romantic Babalú,
Brainstory,
Zale Seck et Japon Daagou
他にも素晴らしい演奏を聴かせたグループが続々と
アフロ・キューバンの音楽に挑戦するRomantic Babalú(ロマンティック・ババルー)は、基本的に日本人の打楽器奏者やヴォーカリスト、ダンサーによるグループです。彼らの演奏は一言で言って上手い! YouTubeの映像を初めて観たときも「おっ」と思ったのですが、実際にライヴを観たら驚くほど上手かった。最近知ったばかりでしたが、とてもいいグループに出会えて嬉しかったですね。
Brainstoryはカリフォルニアの3人組。彼らは……これもまたジャンル的に分けるのは難しいのですが、ロックの要素があり、ちょっとソウルの部分……ラテン・ソウルというか、チカーノ・ソウルというカリフォルニアのラテン系の人たちがソウルの影響を受けた、少しのんびりした感じのスタイルがあるのですが、彼らの音楽もそれに近い。ちょっとジャズの部分もあるかな。で、3人ともたぶんマリワナが大好きだと思います(笑)。YouTubeの映像にはかなりストーナーふうの雰囲気が漂っていて、「ライヴ大丈夫かな」と心配したんだけど(笑)。でも、演奏は上手かったし、ノリもよくて、会場の若い人たちが特に反応していました。
Zale Seckはセネガルのミュージシャンで、曲も作って歌うからシンガー・ソングライターと言ってもいいでしょう。打楽器も演奏する、ライヴでの存在感が伝わる人です。彼の息子であるギタリストと共に二人で来日しました。そして、以前から親交がある日本のバンド、Japon Daagou(ジャポン・ダーグー)はセネガルの音楽を日本でやっています。最近は彼らのように様々な国の音楽を演奏する人たちが増えていて、みんな上手い。一昔前に比べて、演奏力が格段に上がっています。キーボード奏者の木村秀子を中心とするJapon Daagouもすごく上手でした。ライヴではもう一人、在日セネガル人のミュージシャンもゲストで参加してすごく盛り上がりました。観ていて本当に楽しかったです。
元ちとせ、清水靖晃は国内でも知られていますが、彼らを除くと一般的な知名度という意味では有名な人がほとんどいなかった2023年のLive Magic!。でも僕は、これまでのLive Magic!の中でもかなり充実した2日間だったと感じました。楽屋の雰囲気は和気藹々。来てくれたお客さんも、みんなすごく喜んでくれて、良かったと思っています。2024年はいよいよ10周年。それに向けてどんなことができるか。Live Magic!らしくやりたいと考えています。ご期待ください!
PB’s Sound Impression
PRIMAREと
Vienna Acousticsによる
“ライヴ感”あふれる
生々しいサウンド
PB 今日のシステムは、見た目は非常にシンプルな構成ですね。それぞれどんな機材か、ご説明いただけますか。
安達 はい。まず、CDプレイヤーはPRIMARE(プライマー)のCD35をご用意しました。そして、今日のようにネットワークでの音楽再生も行えるよう、オプション・モジュールのSM35を追加しています。これにより、PRIMAREのネットワークプレイヤー機能PRISMAをお楽しみいただけます。アンプは同じくPRIMAREのI35。大ヒットを記録したI32の後継機です。そして、スピーカーはVienna Acoustics(ウィーン・アコースティクス)のBeethoven Concert Grand Referenceをお聴きいただきました。スウェーデンのプレイヤーとアンプ、オーストリアのスピーカーという組み合わせです。
PB 一番下のユニットは何ですか。
安達 こちらはIsoTekの電源フィルターV5 SIGMASです。コンセントから来るノイズや、空気中らあるコモン・ノイズと言われる電磁波によるノイズも減少させるというものです。IsoTekはバラカンさんの母国イギリスのブランドです。
PB そうですか。今日のサウンドは、全体的にすごくライヴな感じというか、生の演奏を聴いているような雰囲気でした。
安達 ありがとうございます。PRIMAREの製品は、音楽性のある設計と言いますか、楽しんで聴けることを大事にしているのが特徴です。そして、このスピーカーはとにかく音が伸びやかで、艶のある音が特徴的です。弦楽器を特にきれいに聴かせるモデルですが、実は設計者はロック好きな人だったりしまして(笑)、もちろんジャンルは選びません。著名なコンサート会場が多いウィーンのブランドということで、まさしくライヴのような感覚でお聴きいただけたのではないでしょうか。そして、Vienna AcousticsとPRIMAREの相性が抜群で、組み合わせの良さも音に表れているかと思います。
PB なるほど。今日はCDのほか、Spotifyやファイル音源をネットワークで聴かせてもらいましたが、操作も簡単で良かったです。
安達 お聞きいただきましたように、サブスクのストリーミング再生も気軽にいい音質でお楽しみいただけます。
PB こんなに簡単なら、我が家でもやってみたいと思いました(笑)。
安達 これからは国内でもネットワーク・オーディオはさらに普及していくと予想されますが、お手元にある大切なCDもストリーミグも両方とも高い音質で再生できるこのような機器が益々注目されていくと思います。CDも、最近は再評価の動きもあるようですね。
PB そうですね。CDは僕も今後しばらく手元に置いておくことになると思います。それにしても今日は本当にどのアルバムも、この部屋の中にミュージシャンがいるようなライヴ感というか存在感があり、すごくナチュラルな音でした。実際にライヴの音源もあればスタジオで録音されたものもあったわけですが、どれも生々しく感じられたのは意外でした。そして、民謡クルセイダーズはSpotifyで聴きましたが、スタジオで作ったものであるにもかかわらず、すぐそこで演奏してくれている感じがすごくありました。また、この大所帯バンドの各楽器もよく見えるというか、分離もよく聞こえて良かったです。
安達 それは嬉しいお言葉です。今日は岐阜まで起こしいただき、ありがとうございました。
◎この日の再生システム
インテグレートッド・アンプ:PRIMARE I35
CDプレイヤー:PRIMARE CD35+SM35(オプション・モジュール)
スピーカー:Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand Reference
パワー・コンディショナー:IsoTek V5 SIGMAS
ナスペック
〒500-8386 岐阜県岐阜市薮田西1-4-5
Tel.0270-24-0878
http://naspecaudio.com/