The Doors『The Doors』, 『Strange Days』, 『Live at the Isle of Wight Festival 1970』, Carole King『Tapestry: Live in Hyde Park』, Joan Baez『75th Birthday Celebration』, Bob Dylan『In & Out of Folk Revival 1961 - 1965 Roads Rapidly Changing』
◎Coming Soon
Morgan James
◎PB’s Sound Impression
「KAGURANE」
構成◎山本 昇
Introduction
今回のA Taste of Musicは、神楽坂にあるユニークなライヴハウス「神楽音(かぐらね)」にお邪魔しています。神楽坂のライヴハウスと言えば、Vol.19で「TheGLEE」を訪問しましたが、このあたりには個性的なお店が多いですね。この神楽音も、規模は小さめながら音にこだわり、また映像設備にも力を入れているとのことで、今回は珍しく音楽の映像作品にスポットを当ててお送りしようと思います。
僕はいわゆるストレート・アヘッドなジャズをそれほど熱心に聴くほうではなく、特に大きな期待をしていたわけではありませんでしたが、何というか、みんな上手いから、先入観なしに聴くことができてとても良かったです。予想以上に楽しめました。セット・リストはアルバムの曲が中心ですが、ストレートなジャズに混じってサイモン&ガーファンクルで知られる「Scarborough Fair」のカヴァーや、「Havana」というレヴィン兄弟の作ったキューバふうの曲があったり、トニーが作った「Pete's Blues」というブルーズもあり、様々な曲を披露しました。また、僕が観たセットでは、ピーター・ゲイブリエルの「Don't Give Up」もカヴァーしていました。たまにはこういうのを聴くのもいいものだなと感じさせてくれるコンサートでした。
レヴィン・ブラザーズ『Special Delivery』
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
[撮影:木島千佳/写真提供:AMSA Records]
Featured Artist
独特の存在感を放つヴォーカルとサウンドで 圧倒的な印象を残したバンド THE DOORS
ドアーズがデビューしたのは僕が高校1年生のときでした。すごく話題になったグループで、友だちの家でもファースト・アルバムの『The Doors』(1967年)はよく聴いていましたね。シングル曲の「Light My Fire」も相当ヒットしていて、ラジオでも四六時中かかっていました。前回のVol.23でも触れたように、1967年と言うと、アメリカで話題に上がるのはほとんどがサンフランシスコのグループでしたが、ロサンジェレスから出てきたドアーズはどこか雰囲気が違っていました。サウンドの印象としては、ギタリストのロビー・クリーガーがフラメンコっぽいアクースティック・ギターをときどき弾いたりするのが面白かったし、ドラマーのジョン・デンズモアは、当時はそれほど目立つ存在ではなかったけど、もちろんバンド・サウンドの面で貢献は大きかったでしょう。そしてレイ・マンザレクのオルガンは、イギリスのビート・グループがよく使っていたファルフィーザ(Farfisa)などとは違った音に聞こえました。クレジットを見るとベイシストがいなくて、ベイスのパートはレイがフェンダー・ローズのPiano Bassを弾いていたと言われていますね。そういう編成も、当時から珍しい存在でした。そして、ジム・モリスンのヴォーカルは何と言うか……上手いかどうかはともかく、その存在感に圧倒されたのは確かです。エッジが立っているようなヴォーカルには、初めて聴いたときからすごく引き込まれてしまいました。
ずいぶん後になって、ロビー・ロバートスンにインタヴューしたとき、ドアーズのことを彼は「下手なブルーズ・バンドだよ」と一笑に付していました。ファースト・アルバム『The Doors』でもハウリン・ウルフの「Back Door Man」を録音していますが、ちょうどその頃に黒人のブルーズをたくさん聴いていた僕にしても、このカヴァーはいただけませんでした。ジム・モリスンは、はっきり言ってブルーズの歌い方は上手くない。でも、これ以外の曲はどれもよかったかな。あえて挙げれば「Whisky Bar(Alabama Song)」には最初は馴染めなかったですね。ベルトルド・ブレヒトとクルト・ヴァイルの「3文オペラ」を元にしていることを当時知らなかったこのメロディは「ロックじゃない」と感じたんです。まだ10代で、ロックに対するこだわりがあったから(笑)。まぁでも、全体としてはすごく好きで、まだLPがそれほど買えない身分なのに自分でもアルバムを買いました。
そして、あれからちょうど50年経った昨年、両アルバムのデラックス・エディションが発売されました。いずれもステレオ・ミックスとモノ・ミックスの両方が収録されていて、『The Doors』のほうは1967年3月にサンフランシスコで行われたライヴの音源も入っています。このファースト・アルバムにもいい曲が多いし、何と言っても「Light My Fire」という大ヒット曲があったわけですが、僕は『Strange Days』のほうが完成度は高いと思っていて、いまでも60年代の最愛聴盤の一つとなっています。曲もよく練られているし、演奏も抜群で、音もすごくいい。曲順も非常にいい感じで並べられていて、聴き終わってもまた頭から聴きたくなるんです。どちらのアルバムも最後に10分を超える長い曲が入っています。『The Doors』には「The End」、『Strange Days』には「When the Music's Over」があるから、レコードのB面には4曲しか収録されていません。いまの若い人が聴くとどう感じるでしょうか。音だけ聴けば古い印象を持つかもしれませんが、プロデューサーのポール・ロスチャイルドは腕の立つ人だし、エンジニアのブルース・ボトニックは大変いい音で録っていると思います。ちなみに、モノとステレオを聴き比べると、モノは奥行き感とパンチの利いた感じがすごくよく分かります。
では、デラックス・エディション版の『The Doors』から、「Break on Through」をモノ・ミックスで聴いてみましょう。いやあ、強烈ですよね。1967年当時としてはすごく新しい音だったと思います。パンチが利いているし、すごく整理されたサウンドでもありますね。昔はこんなにいいシステムで聴いていないから分からなかったけど、モノなのに分離もよく聞こえるじゃないですか。そして、このジム・モリスンのヴォーカルは、先ほどもお話ししたように決して上手い歌手ではないけれど、内にこもっている感情がウワーッとあふれ出て伝わってくる。このアルバムの「The End」ではエディプスの話を思わせるところがあったり、表現の限界というか、タブーとされるものにもどんどん挑んでいくような一面も見せています。有名なアメリカのテレビ番組『エド・サリヴァン・ショー』で、ジム・モリスンは番組側から「Light My Fire」の歌詞の中の“Get Much Higher”に問題があるとして“Get Much Better”と変更するように求められ、リハーサルでは渋々それを受け入れたものの、本番でいきなりレコードのとおり“higher”と歌って出入り禁止になりました。この番組ではストーンズも、「Let's Spend The Night Together」を「Let's Spend The Some Time Together」と言い換えるように求められましたが、ミック・ジャガーはエド・サリヴァンの要求をおとなしくのみましたね。
同じくデラックス・エディション版の『Strange Days』はステレオ・ヴァージョンでいきましょう。いつもかけるのとは違う選曲で「My Eyes Have Seen You」を聴きます。1967年のステレオはまだ、もっと後の時代のミックスに比べると単純ではあるけれど、このアルバムの音は素晴らしい。レイはこのアルバムで、ピアノのほか、チェンバロのように聞こえるオルガンのセッティングでかなり繊細なフレーズを弾いているし、ロビーのギターも、細かいところで格好いいリフを決めています。同時に、全体としてもすごくパワーがある。ジムのヴォーカルも後半になるとほとんど狂ったような勢いが出てきます(笑)。「When the Music's Over」を除くと、3分足らずの短い曲も多いのに、それで十分にぶちかましてきます。一度見たら忘れられないジャケットと言い、これは本当に名盤中の名盤だと思います。
この2月、ドアーズの新しい映像作品が発売されました。『ワイト島のドアーズ 1970(Live at the Isle of Wight Festival 1970)』のタイトルどおり、1970年の「ワイト島フェスティヴァル」での彼らのステージを収録したものです。イギリスの南岸にあるワイト島の音楽フェスティヴァルが始まったのは1968年で、1970年までの3回開催されました。その後2002年に復活しているようですね。1970年のフェスティヴァルは8月26日から30日過ぎまで、5日間にわたって行われています。当時の音楽祭と言えば、金曜から日曜までの3日間くらいが普通ですから、これは前代未聞だったはずです。後に『Message to Love: The Isle of Wight Festival 1970』というドキュメンタリー映画も作られましたが、出演したアーティストの数も多く、そこで取り上げられたのはほんの一部でしかありません。調べてみると、ドアーズが出演した29日の土曜日はほかにも、ジョン・セバスチャン、ショーン・フィリップス、ライトハウス、ジョーニ・ミチェル、タイニー・ティム、マイルズ・デイヴィス、テン・イヤーズ・アフター、EL&P、ザ・フー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、メラニーも出ています。元々は映画にすることを想定していたからか、画質は悪くないですし、ドアーズのエンジニアだったブルース・ボトニックが8トラックのマルチ・テープからステレオと5.1chのサラウンドにミックスしたという音も、思いのほかいいですね。
ジムのヴォーカルはそれなりに迫力があるし、バックの3人の演奏も見応えがあります。「Light My Fire」はソロをかなり長くとっていて、ロビー・クリーガーはジョン・コルトレインが取り上げたことで印象ががらりと変わってしまった「My Favorite Things」を引用したりしています。その間、ジムはちょっとまったりとして、やや虚ろな表情のようにも見えますが(笑)、まぁ、メンバーの長いソロが終わるのを待っているヴォーカリストはだいたいこんな感じでしょうか。
ワイト島フェスティヴァルは、僕も1969年の8月に観ました。ボブ・ディランとザ・バンドがトリを務めた年ですね。2週間前にアメリカでウッドストック・フェスティヴァルが開催されていますが、その映像を観られたのは翌年ですから(笑)、こういう大規模なロック・フェスティヴァルがどういうものなのか、まだ全然分かっていない頃の話です。フェリーで渡るイギリス最南端のこの島は、僕らが子供の頃には夏休みのリゾート地としてもけっこう流行っていたんです。僕も甘い考えで寝袋一つで行きましたが、イギリスは8月も終わりになると夜はけっこう寒いんですよ。フェスの最中はそれなりに楽しく過ごしたんですが、家に帰ったら母親が「あんたの顔は緑色ね」と、つまり死にそうな顔色をしていると言われたのを覚えています(笑)。こういうフェスはステージも遠くて、今みたいに大きなスクリーンがあるわけでもないから、映像を観るような感激はないんですよ。でも、大勢の人たちが集まって音楽のフェスティヴァルを盛り上げるという興奮はすごくありました。特にディランがしばらくライヴをやっていないときだったから、大きな話題にもなりましたしね。個人的には「With a Little Help from My Friends」をヒットさせていたジョー・コッカーが出ていたのも楽しみでした。そのほかでよかったのはザ・ナイスかな。僕はEL&Pは好みじゃなかったけど、ザ・ナイスは案外好きなときもあって、楽しめました。
まずは昨年発売されたキャロル・キングの『Tapestry: Live in Hyde Park』を頭から観てみましょう。これは2016年の7月3日にロンドンのハイド・パークで催された、彼女の大ヒット・アルバム『Tapestry』(1971年)の全曲再現ライヴの模様を収録したものです。当日は6万5千人もの大観衆が押し寄せたということで、すごい熱気ですね。オープニングでは、トム・ハンクスやエルトン・ジョン、ジェイムズ・テイラーなどが映像でスクリーンに登場して場を盛り上げて、1曲目の「I Feel the Earth Move」が始まる流れは、もう最高です。この野外会場の始めのシーンはまだ外が明るいんですが、実はこれでけっこう夜に近いんですよ。ロンドンの夏は午後10時くらいにならないと暗くならないんです。だから、ライヴが始まったのは恐らく8時頃じゃないかな。それにしても、ものすごい数の人たちがハイド・パークを埋め尽くしていますね。バックもとてもいい演奏を聴かせていて、『Tapestry』の録音にも参加しているギタリストのダニー・コーチマーの姿もあります。『Tapestry』の全曲に続いて、60年代に彼女がジェリー・ゴフィンと一緒に作った曲のメドリーをやったり、彼女の生涯を描いたミュージカル『Beautiful』のキャストたちが出てきたりと、内容も盛りだくさん。このDVDは音も良くて、とにかく素晴らしいですね。
7曲目の「You've Got a Friend」などでは観客も一緒にコーラスを歌っていますが、それらを観ると高齢者に交じって若い女性たちの姿も目立ちます。このアルバムが出たのは47年も前のことだから、そのときはまだ生まれていなかった、30代や20代の人たちも多かったということになります。ラジオで耳にしたのか、誰かから勧められて好きになったのかは分かりませんが、こうしたアルバムが若い世代にも継続して聴かれているのは素晴らしいことだと思います。また、キャロル・キングは1942年生まれだから、74歳のときの映像ですが、これだけ歌えるというのもすごいですよね。このライヴ・アルバムはCDもいいけれど、映像もぜひ観てほしい。とても丁寧に撮っていて、上映会をやりたくなるくらい、感動的なものに仕上がっています。実際の話、僕は観ていて何度も感極まってしまいました。アルバムが出てすぐに、ちゃんと観ればよかった(笑)。
キャロル・キング『つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク(Tapestry: Live in Hyde Park)』ソニーミュージックSICP 31074~5(DVD+CD)*日本版のDVDは字幕付き
photo:Elissa Kline
photo:Brian Rasic
photo:Elissa Kline
Joan Baez『75th Birthday Celebration』 75歳を迎えた“フォークの歌姫”がコンサートで見せる貫禄
一方で5曲目の「She Moved Through the Fair」はアイルランドのフォーク・シンガー、デイミアン・ライスとの共演です。ジョーン・バエズはMCで、「他のゲストと違って、彼は昔から知っている人ではありません。なにしろ、年齢は私の1/4ですから(笑)」と言っていますが、これはちょっと大げさで、デイミアン・ライスはこのときすでに42歳。確かに、一般的には有名ではないけれど、彼の歌をとても気に入っていたから招いたということです。彼のほかにも、今年32歳のチリ人、ナノ・スターンも紹介しています。華々しい顔ぶれの中に、彼女がこういう新人も選んで入れているのは意義深いことだと思いました。そして、9曲目はボブ・ディランの「Seven Curses」ですが、彼女はこんなことを言っています。「この曲は、アイルランドかスコットランドかイングランドのどこかで生まれたものに違いないけれど、ボブ・ディランは自分で作曲したと言っているからグーグルではそういうことになっています」。もちろん会場は大ウケ。さらに彼の言い方を真似て「It'a Good Song」とか言っています(笑)。ディランに対してそんな皮肉を言えるのは彼女くらいのものかもしれません。最近発売されたボブ・ディランのドキュメンタリー作品『ボブ・ディラン・ドキュメンタリー・シリーズ VOL.1 ボブ・ディラン/我が道は変る〜1961-1965 フォークの時代〜』を観ても分かるとおり、ジョーン・バエズがフォーク界の大スターであったからこそ、彼女に見出されたボブ・ディランが注目されていったわけです。この記念コンサートに登場した無名のミュージシャンと同じように、当時のボブ・ディランも、ほとんど誰にも知られていなかったわけですからね。そのあたり、クスッと笑えるところもありました。