Special Interview:Nobumasa Yamada
[amp' box Recording Studio]
構成◎山本 昇
今回のA Taste of Musicは久々の出張取材です。湘南・茅ヶ崎にある「amp' box Recording Studio」にやってきました。ここは、レコーディング・エンジニアの山田ノブマサさんが、東京にあったスタジオを移転させるかたちで昨年10月にオープンしたものです。その1階にはなんと、偶然にも「a taste of Music」という名称のミュージック・カフェも併設されています。今日は、このカフェに設置されているオーディオ・システムや、スタジオのモニター・スピーカーで試聴しながら、いつものように僕がお薦めしたいアルバムやライヴについて紹介していきます。また、後半の“PB’s Sound Impression”では山田さんにもご登場いただき、音楽ファンが不思議に感じている「スタジオの謎」を解き明かしてみたいと思います。拡大版でお届けする今回も、最後までじっくりとお楽しみください!
まずは僕が最近観てきたライヴの話題から始めましょう。3月22日、レタスというグループのライヴを「ビルボードライブ東京」で観ました。服装は非常にカジュアルで、どちらかというとヒップホップ野郎的な雰囲気の彼らは、実はそれほど若くはありません。バンド結成が1992年ですから、すでに25年も経っているんですね。メンバーがまだ10代の頃、ボストンのバークリー音楽院のサマー・プログラムで知り合い、ジェイムズ・ブラウンやタワー・オブ・パワーといったファンク・ミュージックが好きだったことから、似た者同士でバンドをやろうということになったようです。バークリー卒業後もバンドの活動は続いて、ボストンのいろんなバーやナイト・クラブに押しかけては、“Let us play”つまり「ぜひ演奏させてください」と売り込んだそうです。この“Let us”がバンド名Lettuceの由来なのだそうで、確かに発音は同じです。だから、野菜はまったく関係ない(笑)。ギターのエリック・クラズノとキーボードのニール・エヴァンズは、ともにソウライヴのメンバーでもありますが、バンドの結成はレタスのほうが先だったんですね。ただ今回の来日公演には、バンドのプロデューサーでもあるエリック・クラズノは参加せず、もう1人のギタリストとベースにドラム、キーボードが2人、そしてホーンの2人という7人編成でした。
彼らのことを、ライヴを観るまではなんとなく知っている程度で、アルバムをちゃんと通して聴いたことがなかったんですが、あまりにもライヴが良かったので、慌てて聴き直しました。『Fly』(2012年)、『Crush』(2015年)、そして最新作の『Mt. Crushmore』(2016年)を聴いたのですが、僕には圧倒的に『Fly』が良かった。ほとんどインストゥルメンタルで、ウォーの「Slippin' into Darkness」もインストでカヴァーしています。いま聴いていた「Ziggowatt」は、ミーターズのドラマーだったジョー“ジガブー”モデリストのことを言っているらしいです。やっぱり彼らは、その辺りの古典的なファンクが好きなんですね。
photo by Yuma Totsuka
photo by Yuma Totsuka
photo by Yuma Totsuka
photo by Yuma Totsuka
photo by Yuma Totsuka
セネガルの伝説的なバンド、オーケストラ・バオバブのニュー・アルバム『Tribute to Ndiouga Dieng』が発売されました。タイトルのとおり、昨年亡くなったメンバー、ンジュガ・ジェンに捧げたトリビュート作品となっています。その中から早速、「Foulo」と「Fayinkounko」を聴いてみましょう。これはもう、僕が最も好きなグルーヴですね。先ほど聴いたレタスがアメリカらしい鋭角的なファンクだとすれば、オーケストラ・バオバブはキューバンなノリを包み込んだ西アフリカの柔らかいダンス・ミュージックという風情です。そして、こちらはヴォーカル曲が中心です。
しかし、1982年に録音したアルバムがその後、『Pirates Choice』というタイトルでヨーロッパで1989年に発売されると、それまで彼らのことを知らなかったワールド・ミュージック好きたちの間で話題になったんですね。さらに時は流れて2000年代に入った頃に再結成して、15年ぶりにアルバム『Specialist in all Styles』(2002年)を出しました。これがワールド・ミュージック・シーンでかなりの評判となり、翌年には渋谷のクラブクアトロで日本公演も行われました。このコンサートは、僕が21世紀に観た中で最も心に残っているライヴの一つです。本当に素晴らしく、感激しました。アルバム『Specialist in all Styles』も傑作だと思います。2007年にも『Made in Dakar』というアルバムを出していますが、こちらはさほど話題にはならず、その後は特に音沙汰もなかったので、「また解散したのかな」と思っていたら、どこかでまだライヴをやっているというニューズを観て、「おー、まだ元気なんだ」と安心したんですね。
アフリカでは昔から、キューバの音楽の影響が強いんですが、アフリカの人たちがやるとキューバのそれとはちょっと違った、のんびりとしたビートになる。それがたまらなく魅力的だと僕は思います。基本的には70'sの音楽がそのまま続いているわけだから、目新しさは何もない。けれど、たまらなく魅力的です。もう高齢の彼らは今後、そう何枚もアルバムを作るわけにもいかないでしょうから、この新作『Tribute to Ndiouga Dieng』の魅力を夏に向けて味わっていただきたいと思います。また、『Specialist in all Styles』をまだ聴いていない人は、こちらもぜひチェックしてみてください。
シカゴから、いわゆるポスト・ロックとはひと味違う、ちょっと面白そうなシンガー・ソングライターがやってきます。この4月に日本盤が発売されるライリー・ウォーカーの『Golden Sings That Have Been Sung』はミニ・アルバムを含めて4枚目の作品。フィンガー・ピッキングのギターが上手な人です。現在27歳ということですが、影響を受けたミュージシャンは、なんと僕が中学生の頃に聴いていたバート・ヤンシュやデイヴィー・グレアムといったイギリスのギタリストだったり、やはり60~70年代のアメリカのジョン・フェイヒーといった人たちだそうです。彼らに共通するのは、いろんなジャンルの音楽を自分たちのスタイルに採り入れたミュージシャンだということです。特にジョン・フェイヒーはエクセントリックな音楽性を持った人ですね。
かつてシカゴ音響派と呼ばれたトータスに、アルバム『TNT』(1998年)から参加しているギタリストがジェフ・パーカーです。コットンクラブで来日公演を行うスコット・アメンドーラのバンドに参加する彼は昨年、最新作『The New Breed』を発表しましたが、この4月にはその日本盤も発売となります。今日はそのハイレゾ音源を山田さんのスタジオ・モニターで聴いてみたいと思います。「Executive Life」、「Visions」、「Jrifted」の3曲の印象は、家のパソコンで聴いたのとは大違い。この機材で聴くと、想像を遙かに超えた複雑な音楽であることがよく分かります(笑)。キーボートの使い方もかなり変わっていますね。いや、本当にビックリしました。
このアルバムの第一印象は、フランク・ザッパの世界をスロー・テンポにしたような感じだったんです。ザッパの場合は目まぐるしくフレーズが変わっていくのについていけないこともあるけれど、ジェフ・パーカーは同じく複雑なことをやってそうなのに、ついていきやすい印象もあったんです。ご存じのとおり、僕はグルーヴ中心の有機的な音楽を聴くことが多いのですが、たまにはこうした人工的な音楽を面白いと感じることもあるんですね。トータスもすべてのアルバムを聴いているわけではないけれど、この『The New Breed』というソロ・アルバムを聴いてみたら、僕の中の何かが反応したんですよ。妙に面白い曲を作るギタリストだなとね。
山田 Pro ToolsをはじめDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)で使用するプラグイン・ソフトは日々進化していますが、優れたアナログ機材の域にはまだ達していないというのが主な理由です。このスタジオでは僕が録ったものだけでなく、ミュージシャンなど他の人が録音した音楽のミックスだけを行うことも多いのですが、その中には僕からすると音楽の本質を捉えていない録音になってしまっていると感じるものもあるんです。そのような、かなり大幅に音を変えなければならない場合は、プラグインでは無理なので、こうしたヴィンテージのコンプレッサーやイコライザーがどうしても必要なんです。
PB どうしてそれが心地いいと感じるのか。そこは僕もずっと引っかかっているところなんですよ。このA Taste of Musicではアナログ・レコードとCDとハイレゾの聴き比べをすることがありますが、僕の耳には大概アナログ・レコードの音が心地いいと感じるんです。それは、僕が若いときからずっと聴き馴染んできた記憶が潜在的にあるからなのか、それとも客観的な理由が別にあってそう感じるのか。いまだによく分からないんですよ(笑)。
山田 では、ジャズ・ピアニストの丈青(じょうせい)率いるJOSEI ACOUSTIC PIANO TRIOが横浜のライヴ・レストラン「KAMOME」で行った生演奏をライヴ・レコーディングした『BLUE IN GREEN』(2013年)から「Intro ~ BLUE IN GREEN」をお聴きください。